五輪イヤー侵攻はロシアの〝お家芸〟過去傍観の米は露の面子保つ解決策を
Japan In-depth / 2022年2月11日 11時0分
この年の北京五輪は8月8日から24日まで開かれた。武力衝突の時期はまさに五輪期間中だったが、プーチン氏にとっては、一顧だにする価値もなかったようだ。
■ メキシコ五輪の年「プラハの春」踏みにじる
歴史をさかのぼって、記憶しておかなければならないソ連の蛮行は、1968年のチェコ事件、さらに古いところでは1956年のハンガリー動乱がある。
前者についていえば、世界体操界の〝名花〟とうたわれたベラ・チャスラフスカ選手のメキシコ五輪での活躍と結びつけて「あの事件か」と思い起こす読者もおられよう。これは後述する。
1968年初めから春にかけて、チェコスロバキア(その後、チェコとスロバキアに分離)国内で、長い経済停滞にあえぎ、言論抑圧に苦しむ国民が勇を鼓して自由化を求め始めた。
ソ連に忠実だった共産党第一書記兼大統領が辞任。改革派の旗手、アレクサンデル・ドプチェク氏が第一書記の後を襲った。
氏は「人間の顔をした社会主義」を標榜し、党中央委員会で、党への権力一元化見直し、スターリンによって粛清された犠牲者の名誉回復、言論、芸術活動の自由化、西側との経済関係強化などを打ち出した。
〝プラハの春〟とよばれる、この民主化運動を苦々しく眺めていたソ連のブレジネフ政権は、9月に前倒しされた党大会で、これらの自由化政策が追認されると、いっそう深刻な事態を招くとして、その前に介入することを決断した。
侵攻の名目にされたのは、「社会主義陣営全体の利益は一国の利益に優先する」というブレジネフ・ドクトリン(制限主権論)だ。戦前のコミンテルン(共産党の国際組織)を主宰したソ連らしい乱暴な論理だった。
8月20日深夜から、ソ連軍にハンガリー、ポーランドなど4カ国を加えた20万人の部隊がチェコに越境、たちまち全土を制圧した。
犠牲者の数などははっきりしないが、20日から翌朝までの間だけで、100人以上の市民が犠牲になったといわれる。
▲写真 チェコスロバキア占領下のプラハ中心部で、ソビエト軍の戦車と市民 (1968年8月25日) 出典:Photo by Keystone/Getty Images
ドプチェク氏らはモスクワに連行されたが、国際的な非難、圧力を受けて、ソ連はやむなく解放。しかし、自由化路線はその後、勢いを失い、同氏は翌年、失脚、保守派が再び台頭した。
東京五輪女子体操で個人総合など3個の金メダルに輝き、日本で大きな人気を誇ったチェコのベラ・チャスラフスカ選手は、芸術家、知識層などが、自由化の推進を求めた「2000語宣言」という公開状に署名していたことから、当局の嫌がらせにあい、10月12日のメキシコ五輪開会式直前になってようやく出国が認められた。
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