ゴム製履帯の可能性 後編
Japan In-depth / 2022年5月1日 11時35分
清谷信一(防衛ジャーナリスト)
【まとめ】
・CRT研究は後追いにも関わらず、外国製のサンプル購入をしての調査や、実際に自衛隊の装甲車輌での試験もしていない。
・CRTの導入は、陸自にとって現在そして将来を考えても、保守費用と労力は大幅に低減できる。
・官民ともに防衛産業をビジネスと捉えて、CRTのビジネス展開を前提にした装備開発が求められる。
前編では通常の金属製履帯に対して、ゴム製履帯CRT(Campsite Rubber Track)が大きなアドバンテージがあることを述べた。防衛省、防衛装備庁でもCRTの研究は三菱重工を主契約者として行われた。筆者が取材したところ、この成果を装備化につなげるつもりは装備庁、陸上幕僚監部とも現状まったくないとのことだった。では一体なんのための研究をしたのだろうか。
しかもこの研究は諸外国で既に装備化しているものの後追い研究にも関わらず、外国製のサンプル購入をしての調査や、実際に自衛隊の装甲車輌での試験もしていない。本来であれば英軍やノルウェー軍などのように数種類サンプル購入をして、まずはトライアルをやってみるべきだ。その結果を分析して、まずそれを国産化できるか、またその場合のコスト的な合理性はあるかを検討してから開発にかかるべきだった。
▲写真 CRTと転輪などのシステムの説明。 出典:SORCY社(筆者提供)
▲写真 CRTの構造 出典:COURCY社(筆者提供)
技術開発では当たり前の、このような当たり前の手順を踏まないのか筆者には理解できない。ソーシー社のCRTは単なるゴム製ではなく、内部はアラミド繊維、金属製メッシュ、金属製コード、金属製補強構造物など7層以上の構造となっている。対して装備庁の研究では資料を見る限りステンレス製のスチールコード一層のみのようだ。外国製の実用化された製品を使用しても、分析することなく想像で研究をして、これでCRTの将来性を判断するのは当事者能力の欠如ではないだろうか。
筆者はかつて三菱重工が開発している次世代水陸両用装甲車の担当者に、この車輌にCRT導入の可能性はあるかと聞いたが否定的だった。その理由は剛性、特にリーフを登攀するときの剛性が不足しているからとのことだった。だがソーシー社では既に50トン級の装甲車両用の製品を実用化している。
この水陸両用装甲車は当初三菱重工の自社ベンチャーだったが、現在では防衛省のプログラムになっている。これが目指しているのは米国が開発を諦めたEFV(遠征戦闘車:Expeditionary Fighting Vehicle)と同等の車輌であり、そうであれば戦闘重量は35トン程度だ。現用のAAV7であれば26トン程度に過ぎない。また英海兵隊が使用しているバイキングや、赤道直下のシンガポールが開発した2連結ATV(汎地形車輌)もリーフ登攀は前提にしているはずだ。判断は性急に過ぎないか。
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