ゴム製履帯の可能性 後編
Japan In-depth / 2022年5月1日 11時35分
▲写真 BvS10(バイキング) Tchad swimming 出典:BAEシステムズシステムズ(筆者提供)
水陸両用装甲車にCRTを採用するメリットは大きい。まず軽量であり、EFVクラスの車輌であれば地上で1〜2トン軽量となる。また前編で既に述べたように水中では浮力があるのでより軽量となる。水中での実質的な重量は2〜4トン以上軽量となる。更に錆びないので、塩害による被害が少ない。ただでさえ整備に労力が掛かる水陸両用装甲車にとって、これは大きなメリットだろう。
保守費用と労力は大幅に低減できる。これらのメリットがあり、既にかなりの強度を実現している製品があるのに、三菱重工が試しもしないで否定するのは、筆者は理解できない。
実は三菱重工では数年前からこの水陸両用装甲車の履帯にCRTを採用する方向に転換しており、某ゴムメーカーと共同開発しているとのことだ。だが、防衛装備庁ではこの事実は把握していないという。
10式戦車、90式戦車、AAV7、89式装甲戦闘車、96式自走120ミリ迫撃砲、99式自走榴弾砲など陸自の装軌装甲車は少なくない。仮にこれらの履帯をすべてCRTに換装すれば、運用コスト、兵站負担と燃料費を大きく削減できるだろう。履帯の整備が簡単になればその分整備要員を減らすこともできる。これは人手不足の陸自にとって大きなメリットだ。
▲写真 CRTを採用したミルレム社のUGV、テーミス(筆者提供)
更に将来は無人車輌が導入されれば、CRTが採用される可能性は高い。エストニアのミルレム社はゴム製履帯を採用したUGV、テーミスで成功したが、同社は戦闘重量12トンで20~50ミリ機関砲が搭載できる、CRTを採用した無人戦闘車Type-X RCVも開発している。今後陸自でも無人車輌の導入は必至であり、その際にCRTが国産できればそのメリットは大きい。自国生産しないならば外国製品を導入しても陸自には大きなメリットがあるだろう。
CRTが作れず、国産の金属製履帯の生産ラインを維持するためだけにあえてコストが高く不便な金属履帯を使い続けるのが国益になるのだろうか。それは電気機関車を導入せずに、釜炊きの仕事を確保するためにSLを使い続けるようなものだ。
CRTは輸出にも適している。防衛装備輸出の規制にも抵触しないので輸出も可能だ。飛行艇や潜水艦の輸出よりよほど容易で、機会も多い。政治や外交が介入しないので、純粋にビジネスベースで輸出が可能だ。更に強靭なCRTは建機や農業車輌などの産業機材への技術波及も大きく、これらを製造販売する日本企業の競争力を高めることとなるだろう。
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