ゴム製履帯の可能性 後編
Japan In-depth / 2022年5月1日 11時35分
ただCRTを三菱重工が主導で開発することに対する不安がある。同社は建機ビジネスから撤退している。かつて同社は1963年から米キャタピラー社との合弁会社である三菱キャタピラーを有していた。だが、2008年には50パーセント保有していた株式の一部をキャタピラー社に売却して33に減らし、三菱キャタピラーはキャタピラージャパンに改名。2012年には33パーセントすべての株式をキャタピラー社に売却した。現在でもフォークリフトの販売だけは継続されている。
つまり三菱重工の履帯のビジネスはほぼ防衛省だけということになる。しかも装軌式装甲車輌は今後も多く開発される可能性はない。これまでの防衛省や国内メーカーの開発の実態を見るに、三菱重工がCRTを水陸両用装甲車に採用しても、それだけで終わり、他の自衛隊の装軌車輌、ましてや民間の建機や農業用車輌への派生効果は低いのではないだろうか。それは水陸両用装甲車の製造コストを高騰させるだけではなく、折角開発した技術が死蔵されてしまう可能性も高い。
むしろ三菱重工よりもコマツ、日立建機、クボタ、ヤンマーなど建機や農業機械を作っている企業の協力を仰ぎ、装備化を進めるべきではなかったか。産業用としても普及すればビジネスとして自立して、自衛隊が使用するCRTの開発や改善に投資できる金額も増える。
▲写真 技本が研究したCRTの試作品(筆者提供)
防衛産業の衰退と企業の防衛産業からの撤退は加速している。これは防衛省、装備庁の姿勢にも大きな問題がある。装備向けに開発した技術を他の製品に転用や輸出したり、民生化して内外の市場で売るという発想がない。だから開発あるいは自衛隊の装備で調達しただけで終わり、ビジネスにつながらない。
例えば技術研究本部は壁面透過レーダーを開発したが、その理由は外国製が電波法の規制に抵触するからという消極的なものだった。しかもユーザーである陸自がどの程度調達するのかということも調べなかった。他国の後追い、しかも法的な問題で外国性が導入できないというのに装備化を全く考えずに開発を行った。
▲写真 中国のヒューマン・ノバスカイ・エレクトロニック・テクノロジーの壁面透過レーダー(筆者提供)
対して中国のヒューマン・ノバスカイ・エレクトロニック・テクノロジーは、技本と同時期に開発を開始したがそのきっかけは中国で大きな震災が続き、災害時の人命救助につかえるのではないかという発想だった。
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