安倍元総理の死と石原慎太郎の死 続:身捨つるほどの祖国はありや 20
Japan In-depth / 2022年7月13日 7時0分
なんども言う。安倍晋三元総理の死はテロであり、決して許されない。
いや、正確には、テロですらない。
テロは、以前にも書いたことがあるが、貧富の差がある限りなくならない。先進諸国から見れば、許すことのあり得ない犯罪である。だが、テロを敢行する側には、それなりの理由がある。
ジャレド・ダイアモンドは言っている。
「消費量の低い国は高い国々に対して敵意を持ち、テロリストを送ったり、低いほうから高いほうへと人口移動が起こるのを止められない。現在のように消費量の格差がある限り、世界は不安定なままです。ですから、安定した世界が生まれるためには、生活水準がほぼ均一に向かう必要がある」(吉成真由美『知の逆転』(NHK出版、2012)30頁のジャレド・ダイアモンド氏の発言部分。弊著『身捨つるほどの祖国はありや』89頁)。
いったい、安倍元総理の命を奪わなければならないどんな理由があり得るというのか。
ない。断じて、ない。
私がテロではないという理由である。政治家の殺害。犯罪。
安倍元総理の死は政治家の死である。非道な銃弾に倒れたのである。もう一度おなじことを言う。テロですらない。
遺された家族はどんな思いか。公的人間にも、大切な私的エリアが存在する。
写真)石原慎太郎氏(2003年4月13日 東京)
出典)Photo by Koichi Kamoshida/Getty Images
安倍晋三元総理が狙撃されたと聞いて、私は石原さんとの対話を思いだしていた。
「もう、石原さんは三島さんにどうやってもかないませんね」
「どうしてだ?」
「だって、三島由紀夫は45歳で腹を切って死んだ。しかし、もうあなたは66歳だ」
「うるさい。俺は死にたくなったら石油を頭からかぶって死ぬ」
石原さんとこんな対話をした人間はいるのだろうか?
そもそも、なぜ私は石原さんに向かってあんなことを口にしたのだろうか?
たぶん、『三島由紀夫の日蝕』(新潮社 1991年刊)が背景にあったのだろう。そのやり取りの前、石原さんは、遠い遠い世界を見やるような視線で、少し目を細めて、
「三島さんは頭のいい人だった」と教えてくれたのだ。
しかし、『三島由紀夫の日蝕』のなかで、石原さんはあきらかに三島由紀夫の運動神経の決定的なまでの欠如を、三島由紀夫の全体像の理解に不可欠なものとして、あげつらっていた。だが、その三島由紀夫の死にかたに、もはや石原さんは及ぶことがないのではないか、と私は思っていたのだ。それで、率直に疑問をなげかけた。石原さんの答は、あきらかに憮然とした態のものだった。
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