「#本物の国葬」にも一理ある(上)国葬の現在・過去・未来 その5
Japan In-depth / 2022年9月26日 18時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・「#本物の国葬」という言葉がSNS上でトレンド入り。「法的根拠」の有無という問題がある。
・英国では「国王以外の者を国葬に付すためには、王室と議会の同意が必要」。「国葬」とは別に「国民葬」がある。
・英国でも、誰かを国葬もしくは国民葬に付すには、なかなか難しい判断を求められる。
9月9日、英国のエリザベス2世女王が逝去し、19日午前11時(現地時間)より国葬が営まれた。日本時間では夜の7時からのことで、NHKニュースでも中継されている。
日本では、安倍元総理の国葬を巡っての混乱が、未だ収束を見ていないという事情もあり、主として国葬に反対する立場の人たちが発信源と思われるが「#本物の国葬」という言葉がSNS上でトレンド入りした。
これについては本誌でも、立命館大学客員教授・外交政策研究所代表の宮家邦彦氏が、
「世界中が追悼するイギリスの本当の国葬と、多くの国民が反対しているにもかかわらず強行されようとしている日本の国葬形式の式典」を対置するような発想について「どうも違和感がある」
といった内容の記事を寄せている。
宮家氏が言われる「違和感」自体は、私にもよく分かる。もともと英国と日本とでは法体系が異なる上に、どちらの法に照らしても、王族・皇族と政治家とでは扱いが異なって当然なのであるから、本物か本物でないいかという比較など、はなから成立する余地がない。
そうではあるのだけれど、宮家氏がアジア・アフリカ諸国の一部で大英帝国による植民地支配をあらためて糾弾する声が上がっていることを例にとって、
「安倍晋三元首相が世界中から弔意を示されたのとは対照的に、エリザベス女王国葬の場合は、旧植民地を中心に、英国の過酷な植民地支配に対する批判が出ているらしいのだ」
とまで記したことには、それこそ「違和感」を禁じ得ない。
安倍首相がテロに斃れたとのニュースが広まった直後から、中韓の一部ネット民が「祝賀メッセージ」をさかんに投稿していたことは、本誌でも報じられた通りであるし、そもそも国葬に反対の意思表示をした過半数の日本人には、なにか「世界中」から除外されるべき理由があるのだろうか、という話である。
元外交官で内閣参与も務められた宮家氏には、それこそ釈迦に説法であろうが、権力の座にあったり、高貴な身分と称されるような人が、世を去ってもなお毀誉褒貶にさらされるのは(個人的にはお気の毒にも思えるのだが)宿命のようなものではないか。
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