結局「聞く力」も説得力もなかった 国葬の現在・過去・未来 最終回
Japan In-depth / 2022年9月30日 0時1分
ただ、前述のように内閣府設置法が規定しているのは「所掌事務」であり、これを根拠に閣議決定だけで誰かを国葬に付してもよいとするのは、いくらなんでも牽強付会であるとの声が、法曹界からも学会からもしきりに聞こえてくるということは、指摘しておきたい。
内閣予備費も同様で、これは本来、災害に際しての被災地支援が典型的な例だが、予定外の支出、それも予算措置が間に合わないような緊急事態に備えておくためのもので、首相のポケットマネーではない。支出が適正であったか否かは、後日国会で審議しなければならないとの規定もある(たとえ不適切だと認定されても、返せ戻せとは言われないらしいが)。
ここで思い出されるのは、戦後唯一、首相経験者を国葬に付した時のことである。言うまでもなく吉田茂元首相だが、時の首相・佐藤栄作は、訃報(1967年10月20日没。享年89)を外遊先のマニラで受け取った。
彼は世に言う「吉田学校」の人脈に連なり、吉田は「生涯の恩師」であると公言していた。
その場で国葬を決断したとも、前々からの腹案であったとも言われているが、ともあれ自民党の園田直・衆議院副議長(当時)に国際電話をかけ、国葬令が廃止されている以上、国葬には法的根拠がない、と前置きして、
「超法規的処置で実施せざるを得ないが、それには野党の了解が必要だ。社会党を説得しろ」
と指示したのである。そして、当時の野党第一党・社会党は割と簡単に了解したらしい。
色々なことが考え得るのだが、ひとつには戦後22年しか経過しておらず、1951年にサンフランシスコ講和条約を締結し、日本を独立国として再出発させた吉田を国葬で送ることに、さして違和感がなかったというのが、おそらく最大の理由だろう。1965年には英国のチャーチル元首相が国葬に付されているが、このことも関係していたと見る向きも少なくない。
そして10月31日、日本武道館で国葬が執り行われた。
前回も述べたように、これは「お葬式」ではない。吉田はクリスチャンだったので、近親者はミサを開いて彼を送っている。
あえて今さらながらの議論を繰り返すことになるが、岸田首相も閣議決定の前にせめて党首会談を行い、7月中に国葬を実施していたなら、国論を二分するほどの騒ぎにはならなかったのではあるまいか。
現実には、9月8日に国会の閉会中審査に異例の出席をしたが、ここでも「法的根拠はある」「国葬の判断は適切であった」と繰り返すのみで、国民に対して自身の信念を熱く語る、という姿とはほど遠かった。少なくとも、これで潮目が変わることはなく、多くの視聴者を落胆させ、反対論を勢いづかせたようだ。
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