忘れ得ぬドーハの悲劇(上)熱くなりきれないワールドカップ その2
Japan In-depth / 2022年11月25日 11時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・1994年のワールドカップ・アメリカ合衆国大会への出場権を賭けて、日本代表はイラクと対戦、ドーハの悲劇が起こる。
・6チーム中の首位に立ち、サポーターや取材陣にも、楽観ムードが漂っていた。
・日本代表の、第一の弱点後半残り20分のガス欠と最大の弱点である経験値のなさが露呈し、ワールドカップへの出場権を逃す。
「こんな非情なことが、あるのかよ……」
民放のニュース番組で、都心のスポーツバーから中継された映像が、サポーターのそんな声を拾った。今も耳の底に残っている。
1993年10月28日、ある年代以上のサッカー好きには忘れられない「ドーハの悲劇」を目の当たりにした時の話である。私自身、しばし放心状態であった。なにしろ民放の中継スタジオまでが、30秒にわたって沈黙し、後々まで語り草となったほどだ。
翌94年に開催されたワールドカップ・アメリカ合衆国(以下、米国)大会への出場権を賭けて、日本代表はイラクと対戦。一般に地区予選は、対戦国が交互に主催する「ホーム・アンド・アウェイ」で戦われるが、この時は最終予選に限って、カタールのドーハで集中開催されていた。
最終予選に残ったのは、日本の他にサウジアラビア、イラン、韓国、北朝鮮、そしてイラク。当時は勝利チームが勝ち点2、引き分けなら双方に1ずつ、負ければゼロというルールであった。現在は勝利で勝ち点3になっているが、それ以外は変わっていない。
総当たり戦で上位2チームが本大会に出場できることになっていたが、日本が最も警戒していたのは韓国とイランであった。とりわけ韓国には、それまでアジア予選で勝ったためしがなく、この時も、
「韓国に負けてもイランに勝てれば、なんとかなる」
という算段であったと、複数の関係者が証言している。勝利チームに勝ち点2が与えられるシステムであったことはすでに述べたが、2位以内を目指すのであれば3勝=勝ち点6で十分と考えられた。これが、なんとかなる、という算段を導き出したのだろう。
しかし、現実は厳しかった。初戦でサウジアラビアを相手にスコアレス・ドロー(0-0)に終わってしまい、次のイラン戦は「なんとかなる」どころか1―2で敗戦。この時点では6カ国中最下位になっていた。
前にも触れたことがあるが、当時の日本代表は、初の外国人監督であるハンス・オフトに率いられていた。就任時の記者会見で、
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