忘れ得ぬドーハの悲劇(上)熱くなりきれないワールドカップ その2
Japan In-depth / 2022年11月25日 11時0分
その後も長く言われ続けた「後半残り20分のガス欠(スタミナ切れ)」である。目に見えて運動量が落ち、イラクのポゼッション(試合中の、いわゆるボール支配率)が高まったのだ。もともとワールドカップには最終予選から過密日程の問題があり、この試合もイラクは第4試合から中3日、日本は中2日でキックオフを迎えていた。
他会場の試合経過も、随時知らされていたが、サウジアラビアと韓国が得点を重ねている。日本はいよいよ、この試合に勝たなければ本大会出場の夢が絶たれる、という苦境に追い込まれた。
しかし69分、ラモス瑠偉からのパスを中山雅史がシュート。見事に決まる。
この時ラモス瑠偉は、二重の意味で勝利を確信したとされる。中山はオフサイドと判定されても仕方のないポジションにいたのだが、副審が旗を揚げなかったのだ。49分にはイラクのオムラム・サルマンが日本からゴールを奪ったが、この時はオフサイド判定でノーゴールとされていた。
不利な状況から勝ち越しに成功したことも大きかったが、事前に噂で聞いた通り、審判団はイラクに不利な判定をしている。ラモスはそう考えたと、複数の取材記者が証言している。
と言うのは、1990年から91年にかけて戦われた湾岸戦争の記憶が未だ生々しく、開催国である米国としては、イラク代表だけは迎え入れたくないのだと、まことしやかに言われていた。
ありそうな話だが、これで喜ぶというのもいただけない。
その話はさておき、その後はイラクのスピードも落ちて、膠着状態のまま前後半90分を終えた。イラクが日本の左サイドからコーナーキックのチャンスを得たが、この時点ですでにロスタイムに入っていたのである。この場さえ守り切れば……。
ここでイラクのフセイン=シハーフは、意表を突くショートコーナー。直接ゴール前に蹴るのではなく、短いパスを出す戦術だが、残り時間を考えれば、あり得ない選択だった。
パスを受けたムフシンが猛然とドリブルで斬り込む。三浦知良がクリアを試みるが失敗。ひりきられてしまう。そして、センタリング。
オムラム・サルマンが放ったヘディング・シュートは、キーパー松永成立の頭上を越え、ゴールに吸い込まれた。同点ゴール。
この瞬間、多くの日本選手がその場に崩れ落ちた。
数秒後に試合が終わったが、大半の選手は立ち上がることさえできず、オフト監督が声をかけて回った。この時ラモス瑠偉は、
「神様、これは一体どういうことですか」
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