「21世紀の税制」を望む(上)【2023年を占う】経済1
Japan In-depth / 2022年12月31日 11時0分
かくして9月6日に船出したトラス政権であったが、わずか49日後、前述のように辞任の沙汰となる。英国憲政史上3人目の女性首相は、史上最も短命に終わってしまった。
トラス政権のどこがそれほどよくなかったのかと言うと、安易な減税政策で人気を集めようとしたことにある。主として大企業や富裕層に課す税金を減免し、企業活動を活性化させることを通じて景気の回復を図るという政策は、1970年代末、英国憲政史上初の女性首相となったマーガレット・サッチャーが実施したそれを彷彿させるものであった。実際にトラス首相自身が「サッチャーの再来」を演出すべく、元首相が好んで着たブルーの服を愛用したりしていた。
しかしながらこの政策は、保守党議員の多数派が受け容れるところとはならなかったのだ。前述の党首選に際しても、スナク元蔵相(当時)はこの政策を、「ファンタジーにすぎない」と批判していた。煎じ詰めて言うなら、サッチャー政権はマネタリズム(通貨供給量をコントロールする政策)でインフレ抑制を先に行ったが、トラス政権はインフレ対策よりも先に減税を実施しようとしている。これでは、福祉予算などの財源確保に大いなる困難が生じ、結局は格差の拡大再生産にしかならない、というわけだ。「金持ちの総取り」になるとの批判も聞かれた。
ここで再びスナク首相に目を転じよう。
1980年5月、英国南部の街サウザンプトン生まれ。父親は医師、母親は薬剤師であるという。代々敬虔なヒンドゥー教徒だが、本人によれば、
「たしかに毎週末、寺院に参拝しているが、同時にサウザンプトンFCの応援も欠かしたことはない。二つの文化の中で育てられたし、私は両方(の文化を)受け容れている」
ということになる。サウザンプトンFCは言うまでもなく彼の地元を本拠地とするサッカークラブで、余談ながら日本代表主将の吉田麻也が所属したこともある。
スナク氏は私学の名門ウィンチェスター校を経てオックスフォード大学を卒業し、さらには米国スタンフォード大学でMBA(経営管理学修士号)を取得。米国の大手投資銀行ゴールドマン・サックスなどを経て政界入りした。
弁護士資格を持つ議員は少なくないが、金融工学のエキスパートでMBAとなると、さほど大勢はいない。ジョンソン政権下で経済政策の上級アドバイザーに指名され、さらには蔵相に抜擢された。前述のように、ジョンソン首相は不祥事によって辞任に追い込まれたが、具体的には、新型コロナ禍で国民が会食もままならない生活を強いられている中、2021年のクリスマスシーズンに、首相官邸で飲酒を伴うパーティーを複数回開いたというもの。実はスナク氏自身も参加していたことが明るみに出て、罰金を納めている。
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