G7が示した日本の「理想」の空疎
Japan In-depth / 2023年6月6日 19時0分
日本に直接のインパクトの大きい尖閣諸島の事例一つをみても、中国側は日本の領海や接続水域への違法の軍事侵入をむしろ増加させてきた。G7での「国際的な現状変更を軍事力で果たしてはならない」という言明など、中国当局はどこ吹く風、というふうなのだ。
そして日本にとってなによりも強く認識すべきは年来の「核廃絶」の主張を今回のG7でとくに高く叫んでみても、その求めに応じる核保有国はまったくなく、逆に日本にとっては現存の核兵器の必要性を改めて強く認識する結果に終わった点である。日本の国家安全を脅かす中国や北朝鮮の核兵器の脅威に対して、丸裸の日本は同盟国のアメリカの核兵器の威力にその抑止を頼るしかないという現実のいやというほどの再確認だったのだ。
核兵器は実際に使用しないことでも強大な効果を発揮する。敵性を抱く相手国に領土、政治、経済などでの要求を突きつけ、相手が応じなければ、最悪の場合、核兵器を使うぞ、と脅す。いわゆる核の恫喝である。なんの対抗手段も独自では持たない日本はこの脅しに屈せざるを得ない。だがそうならなくてもよいのは、同盟国のアメリカが日本の防衛に対してもアメリカの核兵器を最悪の場合には報復に使うぞ、と誓った拡大核抑止の保護を日本に対して差し伸べているからである。
日本の防衛は最悪の事態、そして究極の局面ではアメリカの核兵器の威力に依存しているのだ。だからいまの日本にとってはアメリカの核兵器は必要なのである。その一方で同時にすべての核兵器をこの地上からなくしてしまえ、と叫ぶのは、どうみても矛盾だろう。婉曲にいえば、理想と現実の乖離でもあろう。この理想が幻想でなければ、幸いである。
▲写真:G7広島サミットに出席にあわせ、広島平和記念公園を訪れたウクライナのゼレンスキー大統領(左)と岸田首相(2023年5月21日 広島市)
出典:Photo by Eugene Hoshiko - Pool/Getty Images
今回のG7で事実上の最大主役となったウクライナのゼレンスキー大統領は、広島とウクライナの比較は不適切かもしれないと断りながらも、「広島の破壊の光景は(ウクライナの)バフムートにそっくりだ」と一度ならず、強調した。原爆被害の展示館での写真を熟視したうえでの言葉だった。
ゼレンスキー氏のこのコメントを冷徹に解釈すれば、戦争の悲劇や悲惨は広島だけではない、という認識である。しかも核兵器による殺戮や破壊も通常兵器による殺戮や破壊と同じ悲惨な結果をもたらすのだ、という意味でもあろう。この認識をプッシュしていくと、広島だけが特別ではないのだ、という主張にまでたどり着いてしまいかねない。
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