G7が示した日本の「理想」の空疎
Japan In-depth / 2023年6月6日 19時0分
広島や長崎での核兵器投下による日本側の人間的悲劇はあくまで特別視されねばならない。人類史上、初めての核兵器の実戦での無差別使用だったのだ。現実の被害の規模も例外的に巨大だった。だからその被害にあった日本側、とくに広島や長崎の市民たちは、人類史上、特別な被害者として全世界に向けて、反核や反戦の叫びを発信する特殊な権利がある。いや義務かもしれない。こうした思考は日本国民の多くが自然に抱いてきたといえよう。
しかしゼレンスキー大統領の「広島の破壊の光景はバフムートにそっくりだ」という言葉は、上記の日本側の認識を否定することに等しかった。広島、長崎だけではない、という外部世界の感覚である。日本もウクライナも戦争の被害は同じなのだ、という認識である。国際的現実の示唆ともいえよう。
一方、アメリカのバイデン大統領は広島の被害には寡黙のままだった。米軍による原爆投下にも触れず、もちろん謝罪の言葉はなかった。この点での日米間の断層もなお巨大である。
アメリカ側ではあの原爆投下は日本の降伏を早め、戦争を早期に終わらせ、その結果、多数の人命が救われたという原爆投下肯定がなお主流なのだ。だから2016年5月のオバマ大統領の広島訪問でもアメリカ側では「絶対に謝罪はするな」という声が広範だった。そしてその点で肯定される原爆の「効果」こそが現代の核兵器による抑止の現実へとつながっているのだ。
私はワシントンでの長年の報道活動でこの実態をいやというほど観察してきた。私自身が最初に公開の場でその日本への原爆投下肯定論を正面から突きつけられたのは1994年12月だった。CNNテレビの「クロスファイア(十字砲火)」という討論番組だった。テーマはずばり「広島、長崎への原爆投下は必要だったのか」だった。
この討論番組では初代ブッシュ大統領の首席補佐官だった保守派のジョン・スヌヌ氏とリベラル派の政治評論家のマイケル・キンズレー氏が進行役だった。そして広島と長崎の両方への原爆投下作戦に加わった唯一のアメリカ軍人として知られたチャールズ・スウィーニー退役将軍が登場した。私はおこがましくも日本側の主張役として招かれていた。
2人の進行役の論客は冒頭から私をにらむように「原爆投下は日本の戦意をくじき、戦争を早く終わらせるために必要だった」(スヌヌ氏)とか、「真珠湾をだまし討ちした日本軍は原爆を持っていたら必ず使っただろう」(キンズレー氏)と迫ってきた。
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