陸自の広帯域多目的無線機は使えない(下)
Japan In-depth / 2023年6月15日 18時0分
中隊以上の指揮官クラスは、情報を画面で共有できるため旧式と比べて使用感が良くなったと受け止められている。一方、前線の隊員は脆弱で使いにくい無線機であると認識されている。むしろ小隊長・分隊長以下で位置データの運用に関わらない隊員は、旧式の無線機を運用する方が良いという意見すらある。このようにすれば、部隊の保有する機材を広帯域多目的無線機だけにするのではなく、旧式も活用できる体制が確保できるからだ。
はじめに述べたように、コータムは現代の無線機としては変調方式(アナログ、デジタル共に)が大変遅く、伝送速度はVHFで約1kbpsでしかない。これでは音声やメール、静止画像をおくるのが精一杯である。対して、HFデジタル通信の世界標準は128kpbsである。現在、米軍が使用しているUHF/VHF無線機は5G通信であり、10Gbpsである。しかも静止画像にしても無線機に外部端子を接続することができず、コータム本体の低機能の内蔵カメラを使って撮影したものを送ることしかできない。
現在のネットワーク化された戦場では通信や目情指示はデータ通信やビデオ画像で指示されることがほとんどだ。例えば前線の観測班が得た敵目標の情報はデータや動画で部隊の本部に送られてバトル・マネジメント・システムで共用される。本部は各砲にはデータで指示を出して、各砲の指揮官はそのデータに沿って仰俯角や発射回数を入力して即座に射撃を行える。また戦闘機や攻撃ヘリなどに対地支援を行う場合もデータやビデオが活用される。これができなければ米軍との共同作戦はできない。
ところが自衛隊は米軍と共同演習を行っていながらもこの問題を等閑視している。コータムではこれができない「昭和の遺物」である。携行型無線機にはカメラ機能があるが、無線機本体に外部へのアウトプットやインプットがなく、他のカメラや偵察機器で得たデータや画像を送ることができない。陸自部隊は米軍の航空機に火力支援を要請することが不可能である。
陸上自衛隊はネットワーク化通信機を運用するような組織体系になっていない。現場も基本的に音声通信のみの運用しかしていない。また諸外国が行っているターゲットロケーターを通信機に同期や接続させて行う運用もコータムは非対応だ。NECがコータムとターゲットロケーターなどの機材の接続を拒んでいるらしいという話も聞くが、そもそもコータムの通信速度、容量では対応できない。
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