フランス暴動の背景に「郊外」問題
Japan In-depth / 2023年7月6日 18時0分
そして挙句の果てに若者は道端にたむろするようになりストリートギャング化し、その日常が普通になる。なんの資格もないまま普通の仕事にもつけず、生きる道はそれしかなくなった結果なのだ。
このため、学力の差があるどころか、バンリューには、学校にも行けない、就職先もみつからない若者が多くいる街にもなった。しかも街には、文化的施設も少ない。アクティビティができる場所も少ない。あるのは、マクドナルドと警察署だけ。そんな中で、毎日行われているのが警官に追い回されること。一度捕まれば、警官に殴られ、ひざまずかされ、拳銃で撃つぞと脅される屈辱の日々。
しかも、この教育格差に追い打ちをかけるように、さらに不利になる状況が作られた。1985年、国民教育相がバカロレア取得者を2000年までに80%にすると目標を掲げたのだ。このことで、高等教育進学者が急激に増え、多くの人が大学に行くことが普通になった。大学に行く人数が増えたと言えば聞こえがいいが、大学のレベルは低下した。文化資本のある親を持った子供だけがいけるグランゼコールと、大学の差が大きく広がった原因でもある。
同時に、高等教育の大衆化によって、学位のインフレーションがおこり、学位を持たない者を含む若年層の失業率が高くなった。そこで、バンリューに住むなんの卒業資格ももたない若者の失業率がさらに増加することとなったのだ。
そんな状況の中、バンリューの若者はさらに不満を募らせていった。
ちなみにフランスで今年に入ってからの交通検問中の発砲による死亡事件は3件目だ。こうした事件は2020年に2件、2021年に3件、だけだったものが、2022年に入って突然13件に増加し過去最高を記録した。しかも2017年以降の犠牲者の大半は黒人かアラブ系だ。あきらかに何かがおかしいのは間違いないだろう。
▲写真:17歳少年射殺で警察に抗議する人たち(2023年6月29日 フランス・ナンテール)
出典:Photo by Abdulmonam Eassa/Getty Images
2005年にも暴動が発生している「郊外」
このように一つの事件がきっかけで全国的に暴動が起こったのは、実は、フランスでは初めてのことではない。2005年にも大規模な暴動がおこり、完全に沈静するのに20日間かかった。今回も、フランス政府は最初からこの2005年の二の舞になることを恐れていたのだが、ある意味2005年の暴動の方がましだったかもしれない。当時も若者たちが暴れまくったのは間違いないが、現在のように凶悪な破壊まではなかったからだ。
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