地域住民の命を守った鹿島厚生病院渡邉善二郎院長
Japan In-depth / 2023年7月30日 18時0分
4月27日の読売新聞総合面に「地元で入院できない 福島第一原発30キロ圏で規制 救急搬送1時間超」という大きな記事が出た。これ以降、関係各所に問い合わせが殺到したのだろう。即座に入院規制が解除された。改めてマスメディアの影響力の大きさを実感した。
▲写真 常磐線 原ノ町駅周辺の定食屋で。左から加納昭彦記者、高橋幸江医師(東京都立駒込病院)、筆者、松村有子医師(東京大学医科学研究所)2011年4月29日(執筆者提供)
鹿島厚生病院の入院再開を巡る騒動は示唆に富む。なぜ、民間の医療機関が入院を再開するのに、県の許可が必要だったのだろうか。厚労省の知人に聞いたが、「おそらく法的根拠はないだろう。医療法に基づけば、県が個別の医療機関の営業を指示する権限は無いはずだ」という。後日、知人の記者が福島県に問い合わせたところ、「こちらからは指示していない」と回答したようだ。私は、震災直後の混乱を考慮すれば、福島県の対応は仕方がなかったと思う。当事者能力を失った病院を、福島県がサポートしたことは褒められてしかるべきだ。
問題は状況が変わった後に、柔軟に対応できなかったことだ。なぜ、こんなことになるのだろうか。福島県幹部と厚労官僚は「もし原発事故が再発すれば、自分たちが患者を搬送しなければならない」と主張し、全く動かなかったらしい。これじゃ、有事の際に病人を搬送するのが面倒なので、弱者を見捨てたと言われても反論できない。県や厚労省に震災時に病床数を制限する法的権限はないのだから、役人が福島県民の無知につけ込んで、「超法規的」に対応したことになる。
また、地元の医療機関が福島県に怯えていたことも関係する。当時、福島県の医師数は人口1000人当たり1.8人で、全国37位だった。相双地区に限っては1.1人に過ぎなかった。これは、民族紛争を続けていたシリアやアラブなどの中東地域と同レベルで、高齢化を考えれば、相双地区の医師不足は中東より遙かに深刻だ。
福島県の唯一の医師養成機関は福島県立医大だ。福島県内の多くの病院は、福島医大の医局から医師を派遣して貰っている。このため、希少な医師の派遣力を背景に県全域を支配しているという見方も可能だ。現に、浜通りの病院幹部は「福島県の逆鱗に触れ、医師を引き上げられたら、地域医療は回らない」と言う。また、「東北大から医師を派遣するように頼んだら、県立医大から圧力がかかった(地元病院幹部)」などは日常茶飯事だ。
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