ワグネルとイスラム国(下) ロシア・ウクライナ戦争の影で その5
Japan In-depth / 2023年8月5日 18時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・政情不安定な中央アフリカ、政府と協力関係のワグネルに撤退の噂。
・そのタイミングで、イスラム武装組織の勢力が急激に拡大。
・アフガニスタンから米軍撤退後、タリバンが政権樹立した悪夢の再現になるのでは。
前回も少し触れたが、ワグネルの創設は2014年で、この年に起きた、ロシアによるクリミア併合に参戦した。当時の兵力は250人程度であったと伝えられる。
大半が元軍人であり、直接の戦闘よりも、主に親ロシア派武装勢力のメンバーを訓練する任務を引き受けていたようだ。
幾度も指摘してきたように、この戦争は当初、兵力において圧倒的なロシア軍が、電撃戦で短期間のうちに勝利するだろうと見る向きも多かった。ところが案に相違して泥沼化し、動員される兵力も、そして犠牲も、日を追って増えていった。
一説によればワグネルは、特殊部隊出身の兵士を選りすぐって、ウクライナのゼレンスキー大統領を標的とする「暗殺部隊」をキーウに送り込んだものの、失敗に終わったという。
その原因についても、英国が世界最強の特殊部隊と称されるSAS(スペシャル・エア・サービス=英国陸軍特殊空挺隊)を派遣して身辺警護に当たらせていたからであるとも、ロシア軍内部から情報が漏れていたからだとも言われる。
洋の東西を問わず、軍隊というのは噂が多いところだと昔から言われており、戦争にはこうした都市伝説めいた話がつきものなので、暗殺部隊云々の件は信憑性に乏しいと言わざるを得ない。
ただ、こうした話が広まる背景には、ワグネルがロシア軍の、非公然の同盟軍とでも言うべき位置づけにあったこと、とりわけ、正規軍が手を染めては国際法の観点から具合が悪い「汚れ仕事」を引き受けていたことを、濃厚に示唆しているのではないか。
そのようなワグネルだけに、戦争の長期化に伴って動員兵力も増大していった。2022年末の段階では5万人に達したとされる。内訳は傭兵が1万、囚人兵が4万だが、これはロシア側の資料に基づいた数字で、英米の軍事筋は、囚人兵の数は2万程度と見積もっている。
兵力不足を補うため、戦争終結後は恩赦を与え、実刑判決も取り消して無罪放免とするという条件で、受刑者(=囚人)を徴募したものだ。
言い換えれば、戦争が終結した暁には、多数の囚人が自由の身になるわけで、ロシア市民の間からは反発する声も聞かれた。こうした声に対してプリコジン氏は、
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