平成22年の年賀状「明治の日本、戦後高度成長の日本」・「場所と私、人生の時の流れ、思いがけない喜び」・「紅茶と結石と年賀状」
Japan In-depth / 2023年8月16日 23時0分
迷いはない。石を取り去るしかない。
方法は二つ。衝撃波で砕くか、レーザースコープを尿道から入れてレーザー光で砕くか。
もちろん、衝撃波を選んだ。それであれば1泊の入院で済むうえ、全身麻酔は不要だとのことだったからだ。
「でも、牛島さんは腰のあたりの脂肪の厚みが10センチあるのが気になります。9センチだと大丈夫なんですが。衝撃波は外側から電磁波を加えるので、体についた脂肪が衝撃を弱めてしまうことがあるんですよ。」
説明してくれた磯谷准教授は、200例以上の経験を有している方だ。7割がたはうまく砕けるのだがと言いつつ、3割の可能性に触れることを忘れなかった。
それでも私は迷わなかった。
5月9日に入院し、翌日に衝撃波を加えた。事前に左右を間違わないようにと、左腰に青色のマジックインキで素肌に大きく二重丸が描かれ、まるで漫画のような滑稽な印象を与える。
台の一部、腰の部分が動くようになった手術台の上に乗る。いざ位置を決める段になって、右、左、少し上、いや少し下と指示が出る。そのたびに言われたとおりに身体を動かす。ちょっとしたモルモット気分である。私というのは、案外これで従順な人間なんだなと自分のことを思い直す。
上から当てられた衝撃波なるものは少しも身体に衝撃を与えない。ただ、皮膚の表面でバチバチと音がし、なにやら電気がはじける感触があるだけだ。もちろん、全身麻酔ではなく、鎮静効果のある薬を点滴で入れているに過ぎない。言葉での医師とのやり取りも不自由はない。
30分か40分。
終わって、レントゲンとCTで確認する。どうも砕けていないようだ。7割のうちの3割の目が出てしまったようだった。脂肪の1センチの差のせいかもしれない。
翌朝の退院までには、次はレーザーで砕く作業をすることになっていた。日取りも決まった。
私は、予定どおり退院し、その日の11時半に約束してあったランチの場所に向かったのだった。
7月12日の入院、13日の手術と決まっていた。が、私は石が自然排出されることを毎日祈っていた。もちろんそうなれば一挙に手術の必要がなくなるからである。入院は嫌である。全身麻酔は嫌である。
指定された薬を連日呑む。尿路に留まっている石が排出される作用を手助けする効能のある薬である。それらを毎食後3種、それに朝食後だけはもう一種加えて同じ作用の薬を呑む。自分の身体のためである。医師に指示されたことには完璧に従う。二、三の例外を除き、私は忠実に処方どおり服用を続けた。
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