蒼(あお)を生きる―東大を訴えた青年の今―
Japan In-depth / 2024年8月30日 11時9分
松岡瑛理(ライター、記者)
【まとめ】
・杉浦蒼大さんは、留年訴訟で敗訴後も医学部に進学。
・オンライン診療サービス「oxleap」を起業し、成長を続ける。
・現在も東京大学との名誉毀損訴訟が継続中。
週刊誌で記事の執筆・編集に携わっている松岡と申します。
皆さんは22年の夏、実名・顔出しで記者会見を行う一人の東大生の姿が、テレビや新聞の誌面を飾ったことをご記憶でしょうか。新型コロナウイルスへの感染がきっかけとなり、必修講義に出席できず留年したことを不服として大学を訴えた、東京大学医学部の杉浦蒼大さんのことです。
8月27日発売の『サンデー毎日』では、裁判を経た杉浦さんの「今」に焦点を当てた取材記事を執筆しました。
杉浦さんが留年訴訟を提起したのは、22年8月のこと。9月13日に東京地裁は杉浦さんの訴えを却下、翌23年1月には東京高裁が審理を地裁に差し戻しますが、地裁は再び却下。高裁も差し戻し後の地裁判決を支持し、23年9月には最高裁での敗訴が確定します。24年4月、杉浦さんは入学年度から1つ下に当たる学年のまま、医学部へと進みました。
敗訴が確定する少し前、杉浦さんは医療ガバナンス研究所で知り合った医学生らとともに、診療と薬の処方・決済をすべてオンラインで行うサービスを提供する「oxleap」(オクスリープ)という会社を起業しています。起業後の杉浦さんから約1年間、折に触れて話を聞き、日頃の杉浦さんについてよく知る立場にある同級生などにも取材を行った上で、杉浦さんが提起した訴訟が本人や大学の環境にもたらした影響を記事にまとめました。
このコラムでは、誌面では伝え切れなかった杉浦さんの素顔や成長について、記者である私自身の目線も交えつつお伝えしたいと思います。
「裁判に負けた人間のことを、なぜわざわざ記事にする必要があるのか」とお感じになる方もいるかもしれません。実際、留年訴訟で最高裁の敗訴判決が確定した後は、杉浦さんの訴訟に関する報道は減り、継続しているもう1つの裁判(東京大学がHPに杉浦さん個人への批判を含んだ文書を掲載したことは、名誉毀損に該当するとした民事訴訟)を傍聴しても、他社の記者を見かけることは明らかに少なくなりました。
しかし、たとえ裁判に負けたからといって、人の人生がそこで終わるわけではありません。
所属先の大学と法廷で争った稀有な経験は、一人の青年にどのような変化と成長をもたらしたのか。最初の出会いから約2年間、彼と付き合い続けたからこそ知りえた内容を、ここに記載したいと思います。
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