団塊の世代の物語10
Japan In-depth / 2024年11月12日 16時24分
「違う、違う、違うよ。そんな軽薄なことじゃないよ。
誕生日を祝う、って、その日を特別な日だって思うっていうことだろう。
でも、僕は思うのさ、じゃ、その前日は特別の日じゃなかったの?その翌日は特別の日じゃないの、って。
これ、僕の言っていることって、変?」
「いいえ、わかる、わかります。そのとおりね。」
英子は身体から力を抜くと、ソファの背もたれに上半身をあずけた。小さく息をはく。
「確かに、ね。二人がこうして二人でいることができるっていうのは、どちらも健康で、一定のお金があるから。いえ、お金は私にあればそれでいいけれど、あなたも持っている。」
「ま、サラリーマン社長のなれの果てだから、あなたの百分の一にもならないけどね。でも、暮らしていくにはなんの不自由もない。」
英子が半身を起こして身を乗り出した。目は三津野に注がれたままだ。
「だから、『毎日が特別の日だろう、誕生日だけが特別の日じゃないんじゃないか。だから誕生日だからって祝うのは変だ』っていうあなたの考え、わかる。素敵。
やっぱりあなたは違う!ますます好きになっちゃう。
そうよね、三津野さん。私もあなたのおっしゃるとおりだと思います。
今日から宗旨を変えました。」
そう言うと、英子は後ろを振り返ってウェイターに向かって声をかけた。彼はたったいま、真っ白な生クリームの上にイチゴが点々と載ったケーキを捧げて部屋に入ってきたところだったのだ。
「ありがとう。おろして。でも、蠟燭はいいわ。
お祝いはなし。でも、美味しいオークラのショートケーキはいただくわ。
8人くらいに切って、わたしたちには二つだけをください。」
若いウェイターのまわりには、ドアの向こうに3人ほどのウェイターが控えているのがみえた。先ほどまで腕をふるっていた田中シェフの音頭で「ハッピーバースデー」と声をあげて歌おうと待機しているのだ。
「なるほど、わかりました。」
ウェイターはステンレスの盆を上に支えたまま踵を返すと、音もなくドアから出ていった。
「岩本様はカプチーノですね。」
英子が微笑み返す。
「三津野様にはなにを?」
三津野は大きく身体をソファにあずけると、
「もちろん、カプチーノ!
シナモン・ステッキがあるといいなあ」
と嬉しそうな声をあげた。
「ステッキっていうなんて、よくご存じね」
英子が問うのに、興にのった三津野は、
「もしもステッキ買い込んで、って歌があったろう。
カプチーノの棒切れは、ステッキっていうんだよね」
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