紅海航路回避の動きは拡大するも、経済的影響は限定的、WTO分析(世界、中東、エジプト)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年4月17日 0時40分
WTOは4月10日、「世界貿易見通し」(2024年4月12日記事参照)の中で、「分析:スエズ運河危機」と題し、イスラエルとハマスの軍事衝突に起因する紅海情勢の変化が世界の貿易に与える影響について発表した。
背景として、2023年11月以降にイエメンの武装組織フーシ派が紅海周辺を運航する船舶への攻撃を繰り返しており。これを受けて、紅海航路を回避して南アフリカ共和国の喜望峰を迂回する動きが拡大し、スエズ運河を通過する船舶数は減少している(2024年3月4日記事参照)。WTOによると、スエズ運河の通過船舶数について、2024年2月の週平均は前年同月比で45%以上減少した。併せて、スエズ運河経由の月間貨物量も同54%減少した。他方で、喜望峰を経由した船舶の数は2月に前年同月比2倍以上になったという。これにより、アジア~欧州間の輸送日数は平均で17日間長くなったとしている。
海上輸送運賃については、コンテナ船「Ever Given」の座礁事故(2021年3月26日記事参照)が発生した2021年3月と比較すると、紅海情勢の影響は限定的としている。WTOによると、スエズ運河を通過する貨物船の約半数はコンテナ船で、23%超がタンカー、約10%がドライバルク船だ。2月のコンテナ船運賃は、アジアから欧州向けが最も大きく上昇して前年同月比2.7倍、次いでアジアから北米向けが同2.4倍だったが、座礁事故後や新型コロナウイルス禍と比較すると、3分の1未満だ。ドライバルク船の運賃は、2023年12月と2024年3月に一時的に上昇したが、座礁事故後と比べ平均して40%低い。他方で、タンカーの運賃は2023年9月以降上昇傾向にあり、座礁事故後の水準の2倍以上で推移している。この状況は、淡水不足によるパナマ運河の通航制限や、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた、欧州企業のロシア貿易からの撤退の影響を一部反映しているという。
WTOは紅海情勢による経済的影響について、当初の懸念よりも限定的になる可能性があるとした。その要因には、(1)貨物輸送量は減少しているが、スエズ運河利用は継続されていること、(2)喜望峰での船舶の迂回による輸送遅延が比較的小さいこと、(3)紅海での船舶攻撃発生以降、海上運賃の上昇が抑制されていること、(4)消費者の需要が緩やかで、在庫が十分に確保されていること、(5)世界のエネルギー市場が比較的安定していることなどを挙げている。
イスラエルとハマスの衝突の詳細についてはジェトロの「特集」を参照。
(久保田夏帆)
(世界、中東、エジプト)
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