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橋崩落でも物流は「なんとかなる」? 日本とも関係深い全米有数の貨物港「封鎖」 影響は巡り巡ってやってくる!?

乗りものニュース / 2024年4月11日 7時12分

橋脚に激突して崩れ落ちた橋の下敷きになった大型コンテナ船(画像:米NTSB)。

米ボルチモア港に架かる橋が、貨物船の衝突により崩落しました。出入口をふさがれた港は「首都ワシントンの海の玄関」と呼ばれ、東海岸を代表する貨物港でもありますが、日本への影響はあるのでしょうか。

封鎖された港は「乗用車取り扱い全米1位」

 2024年3月26日、アメリカ東海岸(大西洋側)のボルチモア港に架かるフランシス・スコット・キー橋(キー・ブリッジ。全長約2.6km)の橋脚に、全長約300m、20フィート・コンテナ(TEU)約1万個を積載可能な大型コンテナ船「ダリ」が激突。橋中央部が崩れ落ち、港の出入り口を完全に塞ぎ、事故に巻き込まれた数人が行方不明のままのようです。

 アメリカを代表する港の突然の“閉鎖”に、世界のメディアは一斉に「世界の物流にダメージか」と報じており、貿易立国日本への悪影響も心配され始めています。

 ボルチモア港は、「首都ワシントンの海の玄関」と呼ばれ、2023年の貨物取扱量(重量ベース)は、約3700万tで全米第17位です。

 しかし、乗用車・小型トラック(ピックアップ・トラック)や、コンバインなど農業用機械、建設用重機の取扱量はなんと全米1位で、2023年には約85万台の乗用車・小型トラックを扱っています。

 石炭積み出し港としても有名で、全米第2位を誇ります。後背地のアパラチア山脈にある大炭田地帯の“輸出港”として、インドや中国、日本、韓国などに出荷しています。

 このため同港は日本との関係も深く、マツダやスバルが完成車を満載にした自動車運搬船を寄港させており、また、火力発電所で使う石炭が日本に送られています。

陸軍工兵部隊も出動させたバイデン大統領

 ただし、日本への直接的な影響は、それほど大きくないのではとの観測が、物流業界では主流のようです。

 理由としては、第一にアメリカが誇る物流インフラの層のぶ厚さです。

 東海岸には、ニューヨーク&ニュージャージーやバーモンドなど、巨大貿易港がいくつもあり、これらがボルチモアの分を十分補完できるからです。

 第二に、2024年11月に大統領選を控えるバイデン米大統領には、一日でも早く港封鎖を解除して、有権者に「行動力あるリーダー」を印象付けたいという思惑があるからです。

 早々と連邦政府による全面支援を決め、航路復旧に6000万ドル(約90億円)の緊急支援を投じると断言。さらに陸軍工兵部隊を動員し、航路の早期再開を目指しています。

 このため一部では、4週間以内に大型船の航行再開までこぎ着けるのでは、との楽観論も出始めています。

 日本車の輸出については、前述のマツダやスバルの車種の一部で、アメリカの顧客への納品が多少遅れる可能性はあるかもしれません。それでも、日本の自動車産業に対する直接の影響はごく軽微と見てよいでしょう。

 2023年の日本の乗用車輸出台数は約400万台で、うち約170万台が北米向けです。ただし、相当数は西海岸で陸揚げされ、パナマ運河経由で東海岸に向かう分も、ボルチモアだけではなく、複数の港湾に分散して完成車が陸揚げされています。

 日本向けの石炭輸送についても、直接的な影響はあまりないようです。

 アメリカの年間石炭輸出量は2023年で約7400万tですが、これは全世界の石炭輸出量の数%に過ぎません。

 業界関係者の推計では、仮に航路復旧まで6週間かかるとして、この間に輸送できない石炭は約250万tと推計されるものの、世界の流通量を考えれば、小数点以下のレベル、とのことです。

 また、石炭は貯蔵コストがかからず、数か月分を蓄えるのが一般的です。世界中で産出され、また調達も容易なため、仮にボストンからの石炭供給が1年間滞ったとしても、日本が「石炭不足で発電できない」という事態に陥ることはなさそうです。

コンテナ貨物は大迂回

 ボルチモアは全米第9位のコンテナ取扱量港の顔も持ち合わせており、日米間のコンテナの荷動きが鈍るのでは、と心配する声もあるようです。

 しかし、これも前述のように、近隣の他の港湾がカバーするため、直接的な悪影響は軽いと見てよいでしょう。

 例えば、多少コストがかかっても、迅速さを求めるコンテナ貨物ならば、「ミニ・ランドブリッジ(MLB)」という手段で対応可能です。

 日本を出航したコンテナ船は、途中で針路をボルチモアから西海岸のロサンゼルスやロングビーチに変更し、ここでコンテナ列車に載せ替え大陸横断鉄道で、あるいはトレーラーに積み、インターステート・ハイウェイ(州間高速道路)で、米東部まで陸上輸送する方法です。

 実は世界の物流業界、特にアメリカの海運業界は、皮肉にもコロナ禍やパナマ、スエズ両運河のトラブルで相当鍛えられたといわれています。

 その結果、天変地異や紛争といったイベント・リスクに柔軟に対応するノウハウが豊富で、今回のボルチモア港の事故にも素早く対応し、バックアップ体制を築いているようです。

史上最高額の補償額で船舶保険高騰の懸念

 このように日本に対する直接的な影響は軽そうなのですが、注意しなければいけないのが、物流コストの思わぬ上昇でしょう。

 他の港湾がサポートに入るものの、これらには通常以上に負荷が掛かるわけで、人件費や倉庫代など、あらゆるコストが割増しになります。

 また代わりの港や物流ルートにも負荷が掛かり、オーバーワークが原因でボトルネックに陥った場合、サプライチェーンのさらなる混乱を生み出しかねません。

 船舶保険の高騰を心配する声も聞かれます。

 今回の事故で保険会社が支払う補償金は40億ドル(約6000億円)を下らない、ともいわれます。

 これまでは、2012年にイタリア中西部沖のクルーズ船「コスタ・コンコルディア」の座礁事故で支払われた推定15億ドル(当時レートで1500億円)が船舶保険補償額の世界最高でしたが、今回はこれを軽く上回る可能性が高く、世界の保険業界は戦々恐々のようです。

 このため、世界中の保険会社が経営改善のため、やむを得ず保険の掛け金を“大幅値上げ”する可能性もあります。

 こうしたコスト増は、そのまま輸入品の値段にダイレクトに降りかかってきます。

 エネルギーや地下資源、食糧の大半を輸入に頼り、しかも円安基調にある日本は、もしかすると、さらなる物価高に襲われる危険性がある、と警鐘を鳴らす経済専門家もいるようです。

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