「受験料制度」が日本の就活に投げかける問題提起
JIJICO / 2014年11月15日 10時0分
「受験料制度」が日本の就活に投げかける問題提起
ドワンゴ、波紋を読んだ「受験料制度」を継続
動画投稿サイト「ニコニコ動画」を運営する株式会社ドワンゴは、2015年春入社の新卒採用試験から導入した「受験料制度」を2016年春入社も継続すると発表しました。徴収は、1都3県在住の受験生に限定され、今年の受験料は3,000円。算定根拠は、1次試験(書類選考)までにかかる実費約6,000円を、ドワンゴと受験生で半分ずつ負担した金額とのこと。
ドワンゴ側の見解は、受験料を徴収することにより「本当に当社で働きたいと思っている方」だけが受験することになり、その分、採用活動に時間をかけ、一人ひとりの潜在能力を見極めたいとしています。
ドワンゴの狙いは、現代の不毛な就活シーンの変革
ドワンゴが2013年12月に、前代未聞ともいえる入社試験の「受験料制度」を導入すると発表した際、大きな話題になりました。その際、ドワンゴ会長の川上量生氏はインタービューに対し、「受験料制度」導入の真の狙いは、正常なものとはいえない現在の日本の就活状況に対する問題提起であり、現状に一石を投じたいから、と述べています。
企業における採用活動・学生の就職活動は、本来「企業と社会の未来をつくる行為」であったはずです。企業が必要とする人材は、利益を生み出せる能力であり、利益を生み出す仕組みを考えることができる人材です。しかし、現代社会の就活は、学生は就職活動情報サイトの利便性のもと、サイト上から大量のエントリーを行うことが一般的になりました。大量エントリーを受ける企業側は採用の手間ばかりが増え、本当に必要な人材を見極める十分な時間をかけることが困難な状況に陥り、結果として候補者を一括で足切りしながら選考します。その結果、学生にとっては「就活は落ち続けるのが当たり前」という不幸な負のスパイラルが起こっています。
企業は学生に自己分析を求めながら、実際はSPI (総合適性検査)や学歴で足切りを行っていると言っても過言ではありません。学生は「エントリーから先に進めない」「落ちる理由が理解できない」という体験が何十社と続き、自分の存在を全否定され、確実に疲弊していきます。就活の当事者である学生・企業・大学のそれぞれが徒労感を感じながら、誰もメスを入れることができないのが実態です。ドワンゴの「受験料制度」が就活に投げかける問題提起は、不毛な就活シーンの変革を狙ったことが発端となっていることがわかります。
企業の採用方法に試行錯誤が加えられることに期待
その一方、厚生労働省はドワンゴに対し、受験料徴収は採用活動で禁じられている「報酬」にあたる可能性があるなどとして、「職業安定法 第48条の2」に基づき、来年以降の受験料徴収の自主的な中止を求める旨の行政指導(助言)を行いました。それでもドワンゴが受験料制度の継続を決断した理由は、次の3点でした。
(1)受験料の徴収が「報酬」にあたるかどうかは意見が分かれており、現時点で違反制、違法性が認められているわけではない。
(2)1人の受験生が100社以上もエントリーしている状況が正常であるとは言いがたく、こうした状況を解消するためにも受験料制度は有効。
(3)2,525円という受験料が収入格差により就職の機会を奪うほどの高額であるとは認識していない。また地方出身者からは徴収しないことで、地方と首都圏の格差を縮める狙いもある。
何より、今春に「受験料制度」を敢行した結果、応募者が減った一方で内定者数は前年と変わらず、内定辞退者も減ったとして「期待通りの結果」を得られたことを挙げました。今後、ドワンゴの実験的挑戦と厚生労働省の見解を見守りつつ、企業の採用方法に試行錯誤が加えられること、採用方法の多様性により企業の永続に寄与貢献する人材を発掘する可能性に期待したいと思います。
(大東 恵子/社会保険労務士)
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