『ふてほど』阿部サダヲ、“個性派”としての活躍の裏に「きわどい芸名」受け入れた過去
週刊女性PRIME / 2024年3月8日 21時0分
最近は美男美女の役者が多い。なにせ「狸オヤジ」と呼ばれた徳川家康を松本潤が演じる時代だ。
そんな中、それ以外のタイプの人が損をしているかというと、そうでもない。「演技派」「個性派」などとしてむしろ重宝され、ある意味、隙間産業的な価値を得られるのだ。
阿部サダヲもそのひとりだろう。イケメンではないが、化粧映えする顔という声もあり、カメレオン俳優という評価も受けている。
エキセントリックな芸名の由来
'92年のデビュー以来、膨大な数のドラマ、映画、舞台に出演してきて、現在は『不適切にもほどがある!』(TBS系)で主演中だ。長年の盟友でもある脚本家・宮藤官九郎ならではの意表を突いた物語で、彼の役は昭和から令和へとタイムスリップしてしまい、不適切な言動を連発していくというもの。宮藤のスタンスもまた、隙間産業的といえる。
阿部の代表作『マルモのおきて』(フジテレビ系)も隙間っぽかった。日曜劇場『JIN-仁-』(TBS系)の裏で苦戦が予想されたが、子どもと動物を使って対抗した異色作だ。友人の忘れ形見を引き取り、家族になろうとする中年男を好演。東日本大震災直後のクールで、癒しを求める世間の空気にもハマり、大ヒットした。
そもそも、芸名からして、普通ではない。劇団『大人計画』に入る際、主宰の松尾スズキにつけられたものだが、当初は血色の悪さから「死体写真」という芸名を提案されたという。
それは断ったものの、名字が阿部であることから「阿部定」をもじった「阿部サダヲ」にされてしまった。ちなみに、阿部定とは昭和初期、不倫相手を殺してその局所を切り取り持ち去る事件を起こした女性の名前だ。
芸名はイメージを左右する“記号”
若いころ、勢いでつけた芸名はのちのち面倒なことにもなる。浅草キッドの玉袋筋太郎はNHKに出演するときなど「玉ちゃん」という名前に変えたりしているし、生瀬勝久は朝ドラ『純ちゃんの応援歌』に出演する際「槍魔栗三助」という芸名がNHKのコードに引っかかり、本名でやることにした。おかげで生瀬は、現在放送中の『ブギウギ』まで計5作の朝ドラに出演できている。
一方、阿部の場合はそこまで不適切ではなかったということか、芸名を変えずに今までやってくることができた。2019年には『いだてん〜東京オリムピック噺~』でNHK大河ドラマの主役まで務めたほどである。
『いだてん~』は史上まれな攻めた大河だったし、今回の『不適切にも~』もまた、コンプライアンス重視の状況を逆手にとったかのような攻めた作品。阿部サダヲというきわどく攻めた芸名だからこそ、そういうものにハマりやすいし、視聴者もとっつきやすいとも考えられる。
芸能人にとって芸名は商標であり、さまざまなところでイメージを左右する記号なのだ。このキワモノっぽい芸名を受け入れた瞬間こそ、人生最大のターニングポイントだったともいえる。なお、彼は少年時代「カッコマン」と呼ばれるほどの目立ちたがり屋だったという。たしかに、そういう性格でなければ、美男美女ばかりの芸能界で勝負する気にならないだろう。
イケメンの役者が増えれば増えるほど、隙間産業としての価値も高まり「演技派」「個性派」としてのイメージも強化される。ある種の「身のほど知らず」的な生き方がこれほどの成功を呼び込んだのだ。
とまあ、容姿をネタにそこまで言い切ってしまうのも、今どき、不適切にもほどがある、かもしれないが─。
ほうせん・かおる アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。
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