令和になって振り返る昭和の女性蔑視 多くの人が「女の腐ったの」と口にしていた時代|中川淳一郎
TABLO / 2019年5月7日 13時26分
昭和を振り返る当連載だが、ちょっとちょっと! 令和に入り、昭和って2代前の時代になっちまったじゃねーかよ! しかし、とりあえずはしぶとく昭和を振り返る(平成振り返った方がいいんんか?)が、今回のテーマは「女性の扱い」についてである。
小中学校では先生も生徒も平気で「女の腐ったの」という言葉を使っていた。これの用法としては、「泣く」「告げ口をする」「弱音を吐く」「諦めが早い」といった状況の時に「ケッ、お前は女の腐ったのみたいなヤツだな」となる。
今でも時々使う人はいるだろうが、当時はこれが大っぴらに使われていたし、先生が男子生徒を叱責する際に普通に使われていた。明らかに「女とは泣くもの」「女は陰湿」「女は根性がない」という大前提(というか偏見)をもったうえで、その偏見を基にした「女像」に似た男のことを「女の腐ったの」と呼ぶのである。
あと、最近は聞かれなかったが「女々しい」という言葉も頻繁に聞かれていた。「女の腐ったの」と同様の用法ではあるが、最近は使われないだろう。ゴールデンボンバーの『女々しくて』は2012年の曲だが、もしも今リリースされたらツイッターで炎上していたかもしれない。ここ数年の変化は相当なものがある。また、ゴールデンボンバー自体が、自虐的な芸風で知られているだけに、受け入れられたのかもしれない。
だが、たとえばスポーツニュースに、敗北の結果涙を流す男子選手が登場したとしよう。その場合に高齢の男性コメンテーター風の人が「男が泣くってのは女々しいからおやめなさい」などと言ったら恐らくネットは炎上するだろう。ジェンダーの観点を絡めるともはや炎上する時代のため、今は男子選手が泣いた場合は「悔しいのは分かるけど、泣いても強くなるわけではないので泣くのはおやめなさい」ぐらいのコメントが相応しいかもしれない。
それにしても「女の腐ったの」はすさまじい言葉である。女性を一段下に見た上で、泣く男はそれが「腐った」状態だというのだ。いやはや、こんな言葉が今や公の場では死語になったのは良いことである。
しかしながら、女性蔑視というものには身近に接していた自分もいる。私の母親は福岡県北九州市出身なのだが、その実家(つまり祖母の家)に行くと叔父一家も住んでいる。叔父は一切の家事をしないで、家事は祖母と叔母がやっていた。母は東京で大学に行き、「ウーマンリブ」に触れた世代のため、男女同権の考えを持っていたが、九州の実家はまったく異なった。
母は、私に食後は食器を流しまで運ぶように教育をしていた。だからそうしていたのだが、同様のことを九州の実家でやると祖母からは怒られた。
「アンタみたいな男はそげんことせんでよかト! そげんこったぁヨメジョかオナゴがやるもんタイ!」
この家には祖父母と叔父夫婦、そして姉妹のいとこが住んでいた。ちなみに姉もいる私がその家では唯一の男の孫だった。だからこそ、私を大事にしようとする空気感があったのだ。「ヨメジョ」とは「嫁女」のことで、「オナゴ」とは「女子」のことだろう。
この家の序列を考えるとこのような感じだったと思われる。ちなみに私の父は「家」には含まれず、あくまでも他人行儀である。
祖父
↓
叔父(年下の長男)
↓
私(唯一の男の孫)
↓
祖母
↓
母(年上の長女)
↓
私の姉
↓
叔父の長女(私のいとこ)
↓
叔父の次女(私のいとこ)
↓
叔母
いとこの二人の女の子は、叔父の血を継いでいるだけに上で、「ヨメジョ」である叔母はその下なのではなかろうか。
実際に「男子厨房に入らず」はあったし、「九州は女性の立場が低い」は小学生ながら当時の昭和の私も感じていた。(文◎中川淳一郎 連載『俺の昭和史』)
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