コンビニで煙草パイプ（１９６円相当）を万引きした７３歳に店長が「死ねよ」「お前はクズ」と罵倒したバックヤード

柴田政夫(仮名、裁判当時73歳)はコンビニでコーヒーとタバコを購入し、店内でコーヒーを飲んだ後で店を出ようとしました。しかし店を出る直前、陳列棚に並んでいるタバコパイプが目に止まってしまいました。
レジの方を見るとそこに店員はいませんでした。周囲にも誰もいません。

「盗っちゃっても大丈夫かな」

思わず魔が差してしまいました。彼は数年前ではありますが万引きの前歴もあります。しばらくは収まっていましたがその時の血がまた騒ぎだしてしまったのかもしれません。

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彼は陳列棚からタバコパイプ2つを手に取ると、素早くポケットに隠しこみ精算することなく店外へと出ていきました。

コンビニ店店長の男性は事務所で防犯カメラに映る彼の犯行の一部始終を見ていました。犯人が店外へ出て行くのを確認するとすぐに追いかけて声をかけました。

「そのポケットの中にあるの、何ですか?」

声をかけられると彼はすぐに犯行を認め、謝りながらコンビニ事務所へ店長と同行しました。被害品はタバコパイプ2つのみ、販売価格合計196円です。

店長は警察に電話をかけた後、警察官が到着するまでの間に目の前の犯人を怒鳴りつけました。

「死ねよ! お前みたいな人間はクズだからもう死んじまえよ!」

供述調書の中で店長は、

「犯人は反省してるように見えません。厳重処罰を望みます」

と処罰感情を述べています。コンビニを経営するなかで万引き被害にはとても悩まされているそうです。怒るのも当然だと思います。

だからといって店長が彼に発した言葉は許されるものでしょうか?

万引きと言えば軽く聞こえてしまいますが窃盗罪という犯罪です。その行為は当然厳しく糾弾されなければなりませんし、法の下で裁かれなければなりません。

ただ、それと「死ね」という発言は全く別のものです。罪を犯した人間になら何を言っても許されるのでしょうか? 被害金額が小さいからと言って罪を軽くみる理由にならないのは承知の上であえて書きますが、たかが196円です。

196円で73歳のおじいちゃんに「死ね」とまで言える人の気持ちが全く理解できません。

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万引きの裁判を傍聴していると、このようなことは時折聞く話ではあります。

コンビニで弁当を万引きして事務所に連行された老人が「事務所内で暴れた」という理由で、店長含め数名の店員に羽交い締めにされている防犯カメラ映像を裁判所で観たことがあります。

確かに万引き犯の老人が店長の胸の辺りを突き飛ばすような場面が映っていましたが、とても「暴れた」と表現できるようなものではありませんでした。むしろその後の、数人がかりで取り押さえられている万引き犯の方が暴行の被害者に見えました。ですがこの万引き犯は暴行罪でも起訴されていました。

事務所で店長に叩かれたと証言した主婦の万引き裁判も観たことがあります。氷一袋をコンビニで万引きしたのが店長に見つかり、事務所に連行された後に叩かれたようです。

店長は「叩いてない」と供述し、「もし自分が叩いたとウソの証言を続けるなら示談には応じない」と半分脅しにも取れるようなことも言っていました。被告側は罪が重くなる可能性があることを承知の上で示談交渉を打ちきり、店長から受けた暴行について主張し続けました。

万引きだけでなく他の罪状の裁判でもそうですが、傍聴席から見ているだけでも腹が立つような被告人は多くいます。

開きなおる者、反省の色が全く見えない者、私のような赤の他人が見ても腹が立つ訳ですから、当事者である被害者から見ればなおさらだと思います。しかし、だからといって彼らに何をしてもいい訳ではありません。

彼らも家に帰れば尊敬される父親や母親かもしれない、自慢の息子か娘であるかもしれない。職場では立派に仕事をこなす上司かもしれないし、期待される若手かもしれない。

そんな想像力があれば、彼らの尊厳を踏みにじる言動は取れないはずだと思います。（取材・文◎鈴木孔明）

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