役割終えた母牛を再肥育、価値高めて販売 愛媛のゆうぼく「畜産業の可能性広げたい」
共同通信 / 2024年4月5日 15時49分
愛媛県西予市の畜産業ゆうぼくが、複数回子牛を出産し、役割を終えた母牛を買い付けて再肥育する取り組みを始めた。こうした母牛は廃用牛と呼ばれ、安値で取引されるのが一般的だ。ゆうぼくの牧場で半年間育て直すことで肉質を改善。自社ブランド「はなが牛」で培った技術や経営戦略を生かし、価値を高めて販売する計画だ。岡崎晋也社長(38)は「畜産業の可能性を広げたい」と意気込んでいる。(共同通信=松田大樹)
ゆうぼくは交雑種やホルスタインを中心に約550頭を飼育。生産から加工、販売まで手がける6次産業化を展開する。
岡崎さんは化学メーカーのシステムエンジニアを経て2013年に家業に加わった。「畜産は国を支える産業。未来につながる事業を重ねたい」と、輸入に依存する餌を県内農家から調達したり、人工知能(AI)を活用した生産性向上に取り組んだりしてきた。
若者が集まる畜産業を実現しようと、2017年にはインターンシップを開始。翌年4月に初めての新卒社員が入社した。現在20人超いる正社員の平均年齢は29歳で、多くの若手社員が活躍する。
「ゆうぼくなら母牛の価値を高められる」。岡崎さんがそう語る背景には、霜降り重視の産地間競争とは一線を画し、はなが牛のブランドに磨きをかけてきたノウハウがある。
国内の牛肉市場は1991年の輸入自由化以降、安価な海外産に対抗するため和牛の改良が進んだ。日本食肉格付協会の格付け結果によると、歩留まりや肉質等級の格付けで最高の「A5」が占める割合(和牛去勢)は、長く20%以下で推移したが、10年ほど前から過去最高の更新が続く。2021年に50%を超え、2023年は63.0%に達した。
一方、ゆうぼくは和牛に比べて安価な交雑種やホルスタインの赤身肉を中心に、品質向上や商品開発に注力することで消費者に訴求してきた。
一般的な畜産農家の餌は配合飼料をメーカーから調達する。ゆうぼくでは食の安心へのこだわりから、抗生物質や成長促進剤が含まれないよう自家配合に取り組む。
蓄積した成育データを活用し、トウモロコシや大豆、飼料米などを、肥育の段階や牛の種類に応じて割合を変えながら給餌する。出荷前には約1カ月寝かせて熟成。精肉やハンバーグなど、部位ごとに提供方法を調整できるのも強みだ。
再肥育の取り組みは昨年3月、高知県のブランド和牛「土佐あかうし」を産む役割を担った母牛1頭を買い付けて開始した。岡崎さんによると、母牛は太っていると出産に影響が出るため、摂取カロリーが制限されている。牧場に来た当初はやせ気味だった体を、半年間かけて肉付きを良くした。味は高評価で「利益が確保できる肉に仕上がる」と手応えを得た。今年2月には新たに大分県から黒毛和牛2頭を導入した。
母牛は通常の肉用牛に比べて肥育期間が短い分、高騰する飼料代の抑制や、肥育中に事故死するリスクの低減が見込まれる。取り組みが軌道に乗れば、ゆうぼくがより高い価格で母牛を入札でき、育てた農家の収入増も期待できる。岡崎さんは「母牛には価値ある肉としての可能性が秘められている。持続的な畜産業につなげたい」と話した。
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