「遅い」のに高効率な情報処理技術を開発
共同通信PRワイヤー / 2024年11月28日 14時0分
図2(a)に今回動作実証を行ったトランジスタの模式図を示します。酸化物半導体である、チタン酸ストロンチウムをチャネルとした、MOSトランジスタです。ゲート電極(G)に印加した電圧に応じて、ソース電極(S、電子の湧き出し口)とドレイン電極(D、電子の吸い込み口)の間を流れる電流(ドレイン電極からソース電極へと流れる)が変化します。従来のトランジスタと異なり、チャネル部分に酸化物半導体を用いているので、素子中に存在する酸素欠損イオンを素子動作に利用することができます。
図2(b)でゲート電極(G)に電場を印加したときの酸素欠損イオン分布の有限要素法による解析結果を示します。電場を印加すると、正の電荷を持つ酸素欠損イオンがチタン酸ストロンチウム層の下部に移動していき、それと同時にチタン酸ストロンチウム層上部表面付近で酸素欠損イオンが生成されます。この時、移動速度はゲートへの電場強度に依存するため深さ方向に速度分布が生まれ、チタン酸ストロンチウム層上部表面付近の酸素欠損イオン濃度が時間とともに上昇していきます。酸素欠損イオン濃度が増加すると、電子濃度も上昇し、酸化物中で電流が流れやすくなります。この時、ソース電極(S)・ドレイン電極(D)間に流れる電流は、パルス状の電場入力に対して、ゆっくりと時間変化する信号として取り出すことができます。酸素欠損イオンは酸化物中をゆっくりと移動するので、生体神経のような長い時間変化を容易に生成できます。さらには、蓄電池が充電と放電を繰り返すことができるように、イオンの移動自体は可逆な過程なので、ゆっくりとした動作でも非常に小さな電力で動作する潜在的な可能性を持っています。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411250536-O3-fOwU6aeM】
図3に、実際の電流波形の測定結果を示します。速いパルス(入力周波数の増加時)を入力したときは、出力される電流の振幅が徐々に増加していきます。一方で、遅いパルス(入力周波数の減少時)を入力したときは、出力される電流の振幅が徐々に減少していきます。このように、入力されるパルスに応じて電流の振幅がゆっくりと変化する「リーク積分動作」の実現に成功しました。周波数依存性の解析から、この素子は生体神経と同等程度の長い時定数を持つことがわかりました。この時の消費電力は500 pWと非常に小さく、酸素欠損イオンを制御することで高効率なリーク積分動作が実現できることを示しました。素子の書き込みと読み出しを独立に行うなど、回路への実装方法を工夫することで、さらなる低消費電力化が期待できます。
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