磁性元素を含む新しい超伝導体を発見! ~学生実験の自由テーマの中で発見された超伝導体~
共同通信PRワイヤー / 2024年12月12日 14時0分
本研究では、古くから知られるCuAl2型構造を有する遷移金属ジルコナイド(TrZr2:Trは遷移金属元素、Zrはジルコニウム)に着目しました。TrZr2は様々な遷移金属がTrサイトを占有でき、その超伝導転移温度はRhZr2の11 KやCoZr2の6 Kなど比較的高いことが知られていました。一方、FeZr2やNiZr2など磁性元素を含む物質では超伝導が観測されておらず、その物性も十分に解明されていませんでした。
研究の詳細
本研究では、超伝導体を示さないFeZr2とNiZr2を固溶させたFe1-xNixZr2を新たに合成し、その結晶構造と物性を評価しました。多結晶試料をアーク溶解炉[8]で合成し、X線回折[9]によって結晶構造が連続的に変化することを確認しました。図1(a)にFe1-xNixZr2の結晶構造図を示します。FeとNiはTrサイトで固溶しており、ZrサイトにはZrのみが占有しています。図1(b)にX線回折パターンを示すとおり、ピークシフトが観測され、Ni置換によって格子定数が変化していることがわかります。図1(c)に格子定数aおよびcのNi置換量依存性を示します。Fe1-xNixZr2ではNi置換によってa軸が長くなり、c軸が短くなることがわかります。Niが系統的に置換されていることは、電子顕微鏡や光電子分光を用いた元素分析からも確認できました。
超伝導特性は磁化率測定、電気抵抗率測定、比熱測定から評価しました。図2(a)の磁化率の温度依存性が示すとおり、Ni置換によって、大きな反磁性シグナルが観測され、超伝導が発現することが確認できました。Ni置換によって、大きな反磁性シグナルが観測され、超伝導が発現することが確認できました。x = 0.6において、本系最高の転移温度(2.8 K)が観測され、図2(b)に示すとおりドーム型の超伝導相図が得られました。ドーム型の超伝導相図は、銅酸化物系や鉄系、ニッケル酸化物系の高温超伝導体においてもみられており、元素置換によって超伝導発現機構に関連する物理量が最適化されている可能性があります。
磁化の温度依存性を室温まで測定したところ、図3に示すとおり30 K付近で磁化の異常が観測されました。磁場中冷却(FC)およびゼロ磁場中冷却(ZFC)のどちらのデータにおいても磁化の異常が確認されており、磁気秩序が生じている可能性があります。現時点では磁性の詳細は解明できていませんが、NiZr2が磁性体であり、Fe/Ni固溶によってその磁性が弱められることで超伝導が発現し、ドーム型の超伝導相図になっている可能性があります。このことは,磁性近傍で発現する非従来型超伝導[10]の可能性を示唆しています。今後は、NiZr2の磁性やFe1-xNixZr2の超伝導特性を詳細に研究することで、TrZr2系の転移温度のさらなる上昇を目指します。
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