量子コンピューターの大規模化を支える材料評価技術
共同通信PRワイヤー / 2025年1月16日 0時0分
開発の社会的背景
世界各国の企業や研究所が量子コンピューターの大規模化に取り組んでおり、特に超伝導回路を用いた方式では数百個の量子ビットを集積した量子プロセッサーが作製されています。しかし、量子ビットの数をさらに増加させ、実用レベルの量子コンピューターを実現するにはいくつかの課題が残されています。その一つが極低温下の量子ビットと室温の計測機器を接続するための低温高周波回路の高密度化です。そのため、高周波基板材料を利用した各高周波部品(増幅器、アッテネーター、フィルターなど)の集積化や高密度フラットケーブルの開発は直近の課題とされています。
高周波部品を実装するための基板は、誘電体シートと金属箔の積層構造からなっています。また、フラットケーブルを形成するために用いられる基材も同様の積層構造で構成されています。これらの積層構造の高周波領域での電気的特性を極低温環境下で決定する技術は確立しておらず、量子コンピューターに利用される低温高周波部品の開発の妨げとなっています。
研究の経緯
産総研は、量子関連技術や次世代無線通信技術の発展に向けて、高周波帯でのデバイス評価や材料評価のための計測技術を開発し、産業界へ計測ソリューションを提供してきました。その一環として、室温における高周波回路設計で必要となる誘電体シートの複素誘電率と誘電体/金属界面の導電率を決定する平衡型円板共振器法の開発を行っています(2019年1月17日産総研プレス発表、2020年6月21日産総研プレス発表)。また、低温環境下での高周波コンポーネントの反射・伝送特性の評価技術の開発も行っています(2023年9月21日産総研プレス発表)。今回は、大規模超伝導量子コンピューターに不可欠な低温高周波回路の開発を加速させるため、これらの計測技術を組み合わせて低温環境下での材料評価技術の開発に取り組みました。
なお、本研究開発は、科学研究費助成事業(JSPS科研費)「円偏波マイクロ波を用いた2次元電子系の複素伝導度測定法の開発と応用(2022~2024年度)」(JP22H01964)、「スピン波スピン流の極性制御とデバイス応用(2022~2024年度)」(JP22H01936)の支援を受けています。
研究の内容
高周波部品を実装する基板は、誘電体シートと金属箔の積層構造からなっているため、回路設計では誘電体シートの複素誘電率(比誘電率と誘電正接)と誘電体/金属界面の導電率が不可欠な情報となります。今回、平衡型円板共振器法に独自の改良を加えることで、4 Kから300 Kの広い温度範囲で3つの材料パラメーター(比誘電率・誘電正接・導電率)を同時に評価する技術を開発しました。
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