社説:CO2貯留と水素 温暖化防止に逆行する悪手
京都新聞 / 2024年2月25日 16時0分
実現可能性が見通せない技術に未来を託せるのか。二酸化炭素(CO2)を減らすどころか、排出増になりかねない危険もはらむ。
工場や発電所などから排出されるCO2を回収して地下に埋めて貯留する「CCS」の事業化を進めるCCS事業法案を、政府が今国会に提出した。
CCSは気体であるCO2に圧力をかけて液体のような状態にし、パイプラインや船で運んで地中深く埋める技術だ。
石油を掘削するために使われてきた圧縮空気の注入の応用で、20年以上前から米国やカナダなどで実証実験が続いている。しかし、成功例の報告はなく、実用化にはほど遠い。
政府は「2050年に温室効果ガス排出実質ゼロ」の実現に向け、新法で民間企業による試掘などのCCS事業化を支援する狙いだが、実用のめどが立っていない技術を、喫緊の課題である気候変動対策の「切り札」であるがごとく位置づけるのは、現実的とは思えない。
太陽光や風力、地熱など、技術の進化した再生可能エネルギーを最大限活用する政策こそ求められる。
世界の科学者でつくるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)も最新の報告書でCCSを「高コストで実現可能性も低い」と厳しく評価している。
そもそも、地震国の日本にCO2を永久に閉じ込められる地層があるのだろうか。
圧縮したCO2を船で適切な地層がある国や公海に運んで貯留する構想もあるが、運搬過程で大量のCO2を排出する可能性が高く、本末転倒である。
地中を何キロも掘削すれば周辺環境に与える負荷は大きい。ところが、法案では環境への影響を評価するアセスメントが義務づけられていない。なりふり構わずCCS事業化を進めようという意図が透けて見える。
国会には併せて、コスト高の水素と天然ガスなどの化石燃料の価格差を、補助金で埋めて水素利用を促進する法案も提出された。
補助対象には石油や石炭などから抽出される水素も含まれている。エネルギーを使って化石燃料に手を加えるのだから、コスト高になるのは当然だろう。
こうした水素の利用では、同時にCO2も排出されることになり、温室効果ガスの削減につながるはずがない。
価格差を穴埋めする補助金の資金として、国が発行するグリーントランスフォーメーション(GX)移行債の活用が想定されている。
しかし、GX移行債は本来、再生可能エネルギーのさらなる普及などにこそ利用されるべき資金ではないのか。
二つの法案は、気候変動対策の衣をまとった化石燃料利用の温存策という点で通底している。悪手としかいいようがない。
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