社説:成年後見制度 実態に即し使いやすく
京都新聞 / 2024年3月6日 16時5分
認知症や知的障害がある人の暮らしを支える成年後見制度が、大幅に見直される。
かねて福祉の現場から「実態に合わず、使いにくい」と疑問視され、利用者も伸び悩んでいる。
認知症患者の増加や障害者の高齢化が進む中、当事者らの声も十分に聞き、多様なニーズに応えられる柔軟な仕組みにすべきだ。
成年後見は2000年4月、介護保険と同時に始まった。加齢や病気、障害などで判断能力が十分でない人に代わり、財産管理や医療・介護の利用などを支える。
超高齢社会に向け、暮らしの安心を担保する「車の両輪」と位置づけられたが、介護保険の認定者が22年末で約700万人なのに対し、成年後見の利用者は約24.5万人にとどまっている。
政府の法制審議会が議論し、26年度までに民法改正など関連法案をまとめるという。
後見人は、家庭裁判所に申し立て選任する。法的に強力な代理権を持つことになり、財産を守るためとして「後見人の反対で家族旅行に行けなかった」といったトラブルが起きている。約2割は親族がなっているが、使い込みなどが問題になる例もある。
残りは司法書士や弁護士、社会福祉士ら専門職だが、利用者は月2万~6万円目安とされる報酬が必要になる。制度を利用すると、事実上亡くなるまで中止できないため、継続負担の重さが利用抑制を招いている面は大きい。
法制審では、相続手続きなど一定の間だけ利用したら終了できる仕組みを検討する。後見人権限の制限や、ニーズにより弁護士から福祉関係者といった交代をしやすくする方法も議論するという。
肝心なのは、高齢者や障害者らの実情を踏まえることだ。今年1月に施行された認知症基本法は、あらゆる場面で当事者の参画機会を確保し、意向を十分に尊重することを求めている。
専門家は「今の成年後見制度は、認知症の人は何も分からなくなった人、という誤った先入観に根ざしている」と指摘する。声をくみ取る努力が欠かせない。
身寄りのない認知症高齢者らは、市町村長が利用を申し立てられるが、自治体間の格差が大きい。申し立て割合の全国平均23%(22年)に対し、京都府12%、滋賀県16%と下回っている。
社会全体が後見への理解を深め、制度を臨機応変に活用できる支援体制が要る。「よき後見人」の育成も重要な課題だろう。
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