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社説:近江鉄道の再出発 「公有民営」生かし乗客増を

京都新聞 / 2024年4月9日 16時0分

 滋賀県東部を走る近江鉄道が4月から、「公有民営」の上下分離方式での運行に移行した。

 県と沿線の10市町で構成する法人が線路や車両などを保有して、民間企業の近江鉄道は列車の運行に専念する。JR線以外の公有民営化は、全国で初のケースという。

 地方のローカル鉄道の多くは経営が厳しく、各地で存廃が議論されている。公有民営の上下分離は、公共機関が路線を支えることで地域の移動手段を守る手法として注目されよう。

 その一方、多額の公費投入に対しては、赤字の私企業を税金で救済することになるとして、懸念の声が根強い。

 これまで以上に経営の透明性を高め、利用しやすい公共交通にしていく不断の取り組みを求めたい。

 近江鉄道は1994年度から29期、営業赤字が続いている。ピーク時の67年は1126万人だった利用者が、モータリゼーションや通学者の減少などで近年は3分の1程度にまで落ち込んでいる。

 上下分離でも利用や収入の環境が好転するわけではない。持続的な経営には、まず乗客減に歯止めをかける必要がある。

 車内でビールが楽しめる特別列車の運行など、これまでにも乗客やファン獲得に向けた取り組みはあったが、十分だったとは言い難い。全国には、通学定期を半額にしたり、終電を繰り下げたりと、大胆な「攻め」の取り組みを行って乗客増につなげている私鉄がある。

 近江鉄道もようやくICOCA(イコカ)など交通系ICカード導入を打ち出した。JR線との乗り継ぎや学校の始業終業に合わせた列車の運行などを求める声は多い。運営への特化を生かし、利用者本位で利便性の向上を進めてほしい。

 経営の安定には、安全性の確保が欠かせない。ダイヤ通りの安定した乗客輸送は、鉄道施設の適切な維持管理を抜きではなしえない。

 近江鉄道では2021年12月と22年2月に脱線事故が相次いだ。22年の事故では、国の運輸安全委員会が枕木やレールの締結不良が原因とし、点検や良否判定の基準が明確化されていなかったと指摘した。

 地方の中小私鉄では、資金不足で必要な投資ができていない例が多いと問題視されている。上下分離で保線や駅舎・車両改修には公費が入ることになる。安全への投資を怠らず、災害への備えも高めたい。

 今後10年間に近江鉄道線へ投入される公費は、国と県、沿線10市町合わせて158億円に上ると試算されている。鉄道に乗らない人も含め、広く納税者が維持費を負担することになる。

 自治体は公費がどんな成果を挙げ、まちづくりに鉄道がどう寄与しているかを検証し、丁寧に説明しなければならない。

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