社説:石炭火力「廃止」 合意の意義を直視せよ
京都新聞 / 2024年5月2日 16時5分
期限を切った実効性のある合意になるのか、形だけの文書に終わるのか。石炭火力にこだわる日本の対応が改めて問われよう。
イタリアで開かれた先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合は、二酸化炭素(CO2)排出削減措置のない石炭火力発電を2035年までに段階的に廃止する共同声明を採択した。
CO2排出量が特に多い石炭火力の扱いは、気候変動を巡る国際交渉のたびに焦点となっている。21年の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)や昨年のG7首脳会議でも「段階的廃止」が合意されてきたが、廃止する年限が明示されるのは初めてだ。一歩前進といえよう。
ただ、声明は廃止時期に関し「産業革命以来の気温上昇を1.5度に抑える(パリ協定の)目標に沿った時間軸」とも併記し、石炭火力継続への道を残した。環境団体は「抜け穴だ」と批判する。
石炭の依存度が高い日本に配慮したとみられ、政府関係者も「基本はこれまでと変わらない」と新たな対応は不要との姿勢をみせる。これでは日本の見識が疑われるだろう。
日本の電源構成は石炭火力が発電量の3割を占める。11年の東京電力福島第1原発事故後、新たな石炭火力発電所の建設で、国内の立地数は約170基に上る。現行のエネルギー基本計画は30年度時点でも発電量の19%を賄うとし、大胆な見直しは不可避のはずだ。
脱炭素の包囲網が強まる中、政府はCO2排出削減策として、アンモニアを石炭に混ぜる「混焼」の導入を推進している。廃止対象となる石炭火力には含まれないと主張し、存続を図る構えだ。
しかし、アンモニア製造は多くのCO2が出る手法が主流のため、効果は限定的との批判が強い。
石炭火力からの撤退の潮流は明確だ。G7では英独仏やイタリア、カナダが30年までの廃止を決め、米国も利用削減を支持。日本だけが利用に固執し、足を引っ張っている。
世界気象機関は23年の世界の平均気温は「産業革命前から1.45度高かった」と報告。温暖化対策を定めた「パリ協定」が目指す気温上昇の抑制幅が目前に迫る。
政府は近くエネルギー基本計画の改定作業を始める。原発の比重を高めるのは重大事故のリスクや廃棄物処理の困難さを考えると、解決策には到底ならない。大切なのは、再生可能エネルギーを最大限に普及させることだ。
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