【漫画】同級生とも家族ともうまくいかない… 孤独な女子高生の部屋で起こった「奇跡」とは?【作者インタビュー】
マグミクス / 2024年3月12日 7時40分
■行き詰まりかけた人生で見た、ひとときの「夢」
女子高生のラムロクは、新しく入った学校のクラスメイトと仲良くなろうと頑張るもののうまくいかず、また家族との関係にも悩みを抱えていました。悶々とした生活を送るなか、CDショップでかわいいイラストが描かれたアルバムを買ったラムロクは、その素敵な音楽に癒やされ心地よい眠りにつきます。目を覚ますと、CDジャケットに描かれていた生き物が目の前にいて……。
世界で活躍する香港の漫画家・イラストレーターであるリトルサンダーさん(littlethunder)の著書『Kylooe(カイロー)』の日本語版が2024年2月22日に発売されました。人生に行き詰まりそうになった人びとと不思議な生き物が織りなすひとときの夢を描いた3部作で、今回試し読みとして掲載するのは女子高生のラムロクが主人公の第1章『憂鬱なトンボ・虹との別れ』の一部です。
リトルサンダーさんの日本語版作品としては2020年に『わかめとなみとむげんのものがたり』も出版されています。本書『Kylooe』は、2010年~2012年にフランス語版として出版された3冊が1冊にまとめられた作品ですが、いまでも色あせることのない、オールカラーの繊細で鮮やかなイラストで描かれた香港の風景やファンタジックな世界は壮大で美しく、強く心に残ります。
今回は『Kylooe』の翻訳を担当した野村麻里さんに、お話を聞きました。
ーー『Kylooe』のお話の内容について教えて下さい。
『Kylooe』は三部作の物語です。第1章の主人公、ラムロクは、同級生とも家族ともうまくいかない少女。第2章は青年、サンヤッの学生時代の思い出から始まります。そして第3章の主人公である少年、マイルが暮らすのは、笑うと罰せられる世界……というふうに、それぞれの主人公たちを軸に別々の物語が進んでいきます。
第1章と第2章は香港が舞台で、第3章は架空の国ということになっています。3つの物語に共通しているのが「Kylooe(カイロー)」という、謎のクリーチャー(生き物)が登場することです。
ーー「Kylooe(カイロ―)」という言葉にはどんな意味が込められているのでしょうか?
「Kylooe(カイロ―)」は作者のリトルサンダーによる造語です。これは私の推測ですが、3つの物語をつなぐクリーチャーにオリジナルの名前をつけ、それをタイトルとしたことで、彼女はいままでにない、どこにもない、新しい世界を描きたかったのかな、と思います。そしていままで出版されたどのバージョンにも、「Kylooe」の読み方は書いてありませんでした。日本語版で初めて「カイロー」という読み方を表記できたことを、リトルサンダーはとても喜んでいます。
ーー『Kylooe』の日本版を制作することになった経緯について教えて下さい。
まだ日本でリトルサンダーの書籍が出ていなかった頃、私は彼女のマンガを日本で出版したいと思い、いろんな出版社の方に見ていただきました。そのときに興味を持ってくれたのがリイド社さんのトーチ編集部でした。
それで『Kylooe』日本語版の話を進めている最中に、香港で『わかめとなみとむげんのものがたり』が出版されることになったので、先に『わかめとなみとむげんのものがたり』の日本語版を出そうということになったのです。そこで『わかめとなみとむげんのものがたり』を2020年に出版し、今回『Kylooe』の出版となりました。
『Kylooe』日本語版が発売中
ーーセリフの日本語訳は大変だったのではと想像しますが、日本語版の制作にあたって特に力を入れたことなどはありますか?
マンガの翻訳も翻訳者によって、いろいろな考え方があると思います。私は、できるだけ原文の内容を取りこぼさないようにしながら、日本のマンガを読んでいるときと同じように、読者の心にすっと入っていけるような、自然な日本語を心がけたつもりです。
ーー日本語版の出版について、作者のリトルサンダーさんはどのようにおっしゃっていますか?
『わかめとなみとむげんのものがたり』が出るずっと前から話を進めていた作品なので、今回晴れて日本語版を出版することができて、とてもうれしい、と言っています。そのことは本書内の「『KYLOOE日本版』に寄せて」にも書いてくれていますので、ぜひ読んで下さい。
ーー『Kylooe』のお話の世界観や色彩豊かなイラストが素敵です。『Kylooe』の魅力について改めて教えて下さい。
まずは、圧倒的に美しい絵が『Kylooe』の大きな魅力だと思います。フランス語版が最初に出版されたこともあり、BDの色使いを思わせる、美しい色使いが特徴で、背景から細部に至るまで、ディティールも丁寧に描きこまれているので、1コマ1コマ、じっくり見るだけでも楽しいと思います。
いままで、アニメ『攻殻機動隊』や映画『トランスフォーマー/ロストエイジ』など、香港をモチーフにした作品はいろいろありましたが、『Kylooe』も、特に第1章は、リトルサンダー版の香港という感じで、本物の香港の風景と、ファンタジックな要素を組み合わせていて、見ごたえがあります。
そして、第1章に、主人公ラムロクの大きな不安が、たくさんのカラフルなカラービーストを呼び寄せるというシーンがありますが、不安や悲しみ、苦しみもまた、何か美しい、素晴らしいものへと変わる可能性があることを示唆しているように私は思いました。こんなふうに、読者が物語からさまざまなメッセージを感じ取ることができるのも『Kylooe』の大きな魅力だと思います。
ーー『Kylooe』日本語版の読者の方へ、メッセージをお願いします。
『Kylooe』は、最初の出版から10年以上経っていますが、古さを感じさせない、普遍性のあるマンガだと思います。絵のクオリティの見事さはリトルサンダーを知る人ならご存じの通りで、1コマ1コマがまるで1枚の作品のようです。
近年はイラストレーターとしての仕事が多いリトルサンダーですが、彼女のマンガの世界の面白さにぜひ触れてください。マンガとしては破格の値段だと思いますが、その価値はあると思っています。いつもそばに置いておきたくなる、本そのものが、もふもふのクリーチャー「Kylooe」のような、そんな作品です。
権利表記:Kylooe by Little Thunder (C)Kana(DARGAUD LOMBARD S.A.)2023 – www.kana.fr – All rights reserved
(マグミクス編集部)
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