昔はグレーゾーンだった「ゲーム実況」 現在の「大盛況」はどうして生まれた?
マグミクス / 2024年4月1日 17時10分
■伝説のゲーム番組「ゲームセンターCX」で実況が行われた?
「ゲーム実況」といえば、YouTubeなどの配信では欠かせない人気ジャンルです。多くの配信者が日夜さまざまなゲームプレイを披露しています。ゲーム実況での盛り上がりは、ゲームがヒットする要因のひとつとして、ゲームメーカーも見逃せないポイントとなっています。しかし、ゲーム実況というのはここ20年ほどの新しい文化であり、ほんの少し前はいわゆる「グレーな存在」で、今のように堂々とは行われていませんでした。
ゲーム実況のパイオニアといえば、お笑い芸人よゐこの有野晋哉氏による「ゲームセンターCX」が挙げられることが多いでしょう。当初はクリエイターインタビューを主体にした番組で、そのなかのコーナーとしてレトロゲームに挑む「有野の挑戦」がありました。後に、「有野の挑戦」がメインコーナーとなり、現在のゲーム実況に近い形となります。
これが開始されたのが2003年です。その後、ライブストリーミングを配信するソフトであるPeerCastや、動画配信サイトニコニコ動画、YouTubeなどで、一般のゲームユーザーによる配信が広がっていきます。
■ゲーム実況で「伝説」となった『マインクラフト』
『マインクラフト』と言えば、今や子どもに大人気のゲームタイトルです。この春小学2年生になる筆者の息子も、Nintendo Switchでプレイしています。しかし、同作はもともとゲームマニアだけが知るインディー作品でした。それが広がっていくきっかけが、ゲーム実況だったのです。
今でこそ家庭用ゲーム機でも普通にインディゲームが遊ばれていますが、ほんの少し前まではPCでゲームマニアが遊ぶジャンルであり、『マインクラフト』もそのひとつでした。世界のすべてがブロックで構成され、それを壊してアイテム化し、自由に組み合わせて遊ぶことのできるゲーム性は、当時としては革新的であり、ゲーム実況を通して多くのゲーマーに衝撃を与えました。
ゲーム実況によって『マインクラフト』は広がりましたし、逆に言えば『マインクラフト』によってゲーム実況も広がっていきました。
■議論が分かれた「ゲーム実況」の是非
動画配信サイトで盛り上がり、ヒットとなった『スイカゲーム』
ゲームを遊ぶだけではなく、「観る」文化として広がりつつあったゲーム実況ですが、それがゲーム業界に歓迎されていたかというと、必ずしもそうではありませんでした。ゲームの動画はゲームメーカーの著作物であり、これを無断でアップロードすることは、メーカーの権利を侵害することになります。
ユーザーが盛り上がって宣伝になるという理由から、メーカーが黙認する場合もありましたが、ゲームのネタバレを危惧したり、ゲーム体験が毀損(きそん)されることを恐れる意見も根強くありました。
大きく流れが変わったのは、2013年ごろからのゲームハードメーカーの動きです。海外で先行して発売されたPlayStation 4は「シェアボタン」を搭載し、ハード自体にゲームを配信する機能が備わっています。この機能にはメーカーによる「配信禁止区間」の設定があり、ネタばれなどを危惧するメーカー側が、配信できる部分とできない部分をコントロールできるようになりました。
また、2014年には任天堂がYouTube、ニコニコ動画などの動画配信サイトとの提携を告知していく動きがありました。国内ゲーム業界の慣習として、任天堂の動向はサードパーティーに大きな影響があり、任天堂ハードにおけるゲーム配信の推進に大きなインパクトを与えます。
■「新型コロナ」を経て「新作が売れる特急券」に
メーカーの著作権を侵害しているものの、黙認されているうちは大きな問題にはならないだろう……という、微妙な立ち位置にあったゲーム実況でしたが、各メーカーガイドラインを公表したことで、誰でも安心して実施できるものへと変わっていきます。その後、「にじさんじ」や「ホロライブ」などのVTuberがゲーム実況を始めたことも、人気に拍車をかけました。
さらに2020年、「コロナ禍」が訪れます。新型コロナウィルスは社会に大きな衝撃を与え、自宅で過ごす時間が増えた時期でした。その影響から、動画配信サイトが賑わい、ゲーム実況を行う人も増えていきます。それまでそれほど多くなかった芸能人によるゲーム実況なども増えていきます。
昨年は、『スイカゲーム』『8番出口』といったタイトルがゲーム実況で盛り上がり、それを足がかりにヒットしました。面白そうなゲーム、ちょっと変わったゲームには、飛びつくように配信者がゲーム実況をし、そして動画配信サイトで盛り上がる……こうした流れ場、新規タイトルが売れる道筋をつくる特急券となっています。
ゲーム実況の歴史はたった20年ほどの、とても新しい文化です。これから先も、さまざまなアイデアや議論が交差しながら発展していくことになるでしょう。
(田下広夢)
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