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なぜガンダムは「ハンマー」を使う必要があった? 「大人の事情」に応え続けた富野監督のサービス精神

マグミクス / 2024年4月20日 6時10分

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■あれらの武器はなぜ必要だった?

 拳でビルも粉砕、腕からはミサイル、目からはレーザービーム……昭和半ばに生まれた私のような世代にとって、子供のころTVで見る「ロボット」とはそういうものでした。

 天才科学者が作ったスーパーロボットは頑丈で、敵を迎え撃つためのさまざまな武器を装備……しかし、あらためて見てみると、スーパーなロボットのクセをして、剣を持っていたり、銃を持ったりしているものがたくさん。そんなもの、はじめから体に組み込んでしまえばいいじゃないかと思いませんか?

 実はここにも「大人の事情」というのが働いています。

 そうです。玩具のためです。かつてロボット玩具を手にした記憶のある方ならお分かりでしょう。まず放送開始と共に発売されるロボットだけの単体の玩具。そこには、プレイギミック用の、例えば小さなミサイルとかがちょっと付随しています。

 ところが、それから数か月、大概は8月と12月くらいになると、でっかーい箱に入った「デラックス○○セット」なんて商品が発売され、箱の中央にはロボット、そのまわりにずらっと盾だの剣だの銃だのが入っていて、おじいちゃんやおばあちゃんから孫へのプレゼントとなります。8月はお盆帰省、12月はもちろんクリスマスというわけです。

 巨大な箱であることは、子供を無条件に喜ばせ、購入する側にとっても立派なものをプレゼントできたという満足度を与えます。まさにこれが玩具メーカーの商品戦略というわけです。そして、これに律儀に応え続けていたのが、実はあの『ガンダム』の富野由悠季監督なのです。

 今でこそ日本を代表するアニメ監督ですが、かつては、まだまだ無名だった「日本サンライズ」という小さなアニメ制作会社が生き残っていくための「マーチャンビジネス」つまり「版権料」という収入のために、その才能を発揮していたのです。

 日本サンライズは、自分たちが版権を保持出来るオリジナル作品を作り続けました。その版権によって発生する版権料を主に生み出してくれるのが玩具メーカーです。

 その事情をよく知っている富野監督は、玩具メーカーの希望にあわせ、ロボットの手持ち武器を物語の中にうまく組み込み、活用することで、スポンサーのオーダーを満たしながら番組を成立させていったのです。

 当時の玩具メーカーとしては、商品が売れてくれれば、それ以上のことを制作側に要求してくることはありません。それは、作品に向き合うアニメ制作現場にとってはとてもありがたいことです。

 ザンボットが剣を持っているのも、ダイターンが扇子(ファン)を広げるのも、ガンダムが盾を持っているのも、ザブングルがでかいミサイルランチャーを担ぐのも、飛べるダンバインがフォウに乗るのも、みな商品のプレイバリューのためであり、それをロボットの魅力のひとつとして不自然なく使ってみせる。これが富野監督だったのです。

 富野監督は、ああ見えて実はとても真面目で責任感の固まりのような方です。そのサービス精神は、どう考えても不似合いだろう「ガンダムハンマー」ですら作中で使用し、『イデオン』では光る玩具に併せて顔面に光を走らせ、ついには宇宙を貫く「イデオンソード」まで登場させますが、さすがにこれだけは玩具では巨大な剣にしか出来なかったようです。

 スポンサーのオーダーにちゃんと応えることと引き替えに、作品内容は任せてもらう。それが、あのロボットたちの数々の武器だというわけなのです。

 ほら、なんとなく、あの玩具でもう一度遊びたくなりませんか?

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。

(風間洋(河原よしえ))

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