『巨神ゴーグ』放送から40年 安彦良和氏が心血を注いだが、「コンセプト」が独特すぎた?
マグミクス / 2024年4月5日 7時10分
■従来のロボットアニメとは一線を画す作品
本日4月5日は、1984年にTVアニメ『巨神ゴーグ』が放映開始した日です。今年2024年で40年の時が経ちました。第二次ロボットアニメブームとも言われた時代に誕生した作品のなかで、もっとも独自の道を歩んだのが本作です。
本作の企画は、『機動戦士ガンダム』をはじめとする数々のアニメ作品に関わってきた安彦良和さんが主導して製作されました。その安彦さんの本作での役割は、原作、監督、レイアウト、キャラクターデザイン、メインメカデザイン、作画監督と多岐にわたっています。
当時のインタビューで、安彦さんは「TVに見切りをつける前に1シリーズやってみたかった」「TVアニメはこれで卒業」という自身の気持ちを吐露していました。それほどの気持ちで本作に挑んだというわけです。
そういう意味では、本作は安彦さんが関わったTVアニメ作品としては集大成と言えるのかもしれません。それゆえに普通のロボットアニメとは違う、一風変わった物語となっていました。
世界地図から消された「オウストラル島」を舞台に、亡き父の遺志を継いで島に隠された秘密に迫る少年「田神悠宇(たがみ ゆう)」が本作の主人公です。この悠宇が島にいた謎の巨人「ゴーグ」と出会い、数々の障害を乗り越えて秘められた謎を解き明かしていくというのが、本作の大まかな物語でした。
このゴーグがいわゆる主役ロボになるわけですが、当時のスタンダードな作品とはいくつも異なる部分があります。まずゴーグは自立型、いわゆる自分で考えて動くロボでした。悠宇はパイロットでなく、頭部などに生身のまま乗って指示を与える存在です。
これには安彦さんがゴーグという存在を、巨大ロボとしてとらえていなかったからでした。動物のゾウがイメージだったそうです。幼いころにゾウに乗った安彦さんが、その時の感覚と記憶からゴーグをインスピレーションしました。そう言われると、ゴーグと悠宇の関係はまさにゾウと人を思わせるものがあります。
また、ロボットアニメといえば毎回、敵ロボとの戦闘シーンがあるもの。しかし、本作は必ずしもそうではありません。何せゴーグが本編に登場するのは第4話からです。さらに言えば剣のような派手な武器での戦闘もありません。一応、銃火器を持ったこともありますが、基本的にゴーグは武器を持たない存在だからです。
こういったロボットアニメの常識から外れたのも、安彦さんが目指していたのはあくまでも「少年の冒険譚」だったからでした。それゆえにロボットアニメの決まり事だった侵略や戦争といったものからは縁遠い作品となったのでしょう。
もっとも、製作は順調に進みながらもストップがかかることになりました。本来なら1983年秋からのスタートになる予定が半年ほど遅くなります。これには、スポンサーとなった玩具会社タカラが『装甲騎兵ボトムズ』の放送中を避けたと言われているほか、いくつかの説がありました。
しかし、この放送が半年間延長となったことが、本作にとって幸運な出来事となります。
■放送が延期されたことで受けた恩恵とは?
主人公の悠宇が大きく描かれる、『巨神ゴーグ』挿入歌「TWILIGHT」「CALL MY NAME」(ビクター・エンタテインメント)
放送が遅れたことで本作の制作時間に余裕が出来ました。それゆえに『巨神ゴーグ』のクオリティは当時のTVアニメとしては大変高いものになっています。
その最大の理由は、安彦さん自らが全26話中24話の各話で作画監督を担当していることでした。しかも残りの2話の作画監督は土器手司さん。この作品で安彦さんから認められた土器手さんは、翌年1985年に『ダーティペア』のキャラクターデザインに抜擢されています。
作画の面だけでも破格のクオリティを維持している本作ですが、文芸面も隙のない布陣となっていました。メインの脚本は多くのヒット作品で知られる辻真先さん。演出には劇場用アニメ『クラッシャージョウ』でも演出を手がけた鹿島典夫さん、さらに後に劇場用アニメ『アリオン』でも活躍する浜津守さんという布陣でした。
スポンサーであるタカラからは「安彦さんの自由にやってくれていい」と言われたそうで、それゆえに安彦さんの思い描く冒険譚アニメとして『巨神ゴーグ』は完成します。もっとも、それゆえに流行のロボットアニメとは異なる作品にへと仕上がったと言えるでしょう。
その結果、メイン商品となるオモチャの売り上げは苦戦しました。しかし、タカラはこれまでにない商品で『巨神ゴーグ』の魅力を伝えようとします。それが「Qロボ」と言われる低等身キャラのオモチャでした。
このQロボのデザインは本作の作画とメカデザインを担当していた佐藤元さんです。当時はまだディフォルメキャラは各社でも手探り状態でした。後に大ヒットとなる「SDガンダム」が展開されるのも翌年の1985年からのこと。そういう意味では先駆けとなった商品です。
また、制作がTV放映より進んでいたことで当時としては珍しいビデオソフトとしても本作は販売されていました。しかも最終回の入っていたビデオソフトはTV放送よりも先に店頭に並んでいたという、異例の速さで販売されています。
このように特筆する点が多い作品でしたが、当時から現在に至るまで人気のあった作品とは言い難い評価となりました。それはやはり、一般視聴者層が望むロボットアニメではないという点が大きいのではないでしょうか?
当時を含めてロボットアニメに望まれるものは「バトル」であり、その点から見れば『巨神ゴーグ』は評価の低い作品と言わざるを得ません。しかし、前述したように安彦さんの目指していた冒険譚としての物語は素晴らしい完成度と言えるでしょう。
ロボットアニメとしては商業的には失敗だったかもしれませんが、少年の冒険譚として見れば、本作の魅力に気づく人も多いことと思います。
(加々美利治)
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