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代打で再放送の『つり球』は必見のSF(青春フィッシング)アニメ。奇想天外だが親近感も

マグミクス / 2020年4月28日 19時40分

代打で再放送の『つり球』は必見のSF(青春フィッシング)アニメ。奇想天外だが親近感も

■「楽しい」を分け合えれば、世界だって救える

 新型コロナウィルス感染拡大の影響で、2020年4月にフジテレビ「ノイタミナ」枠で放送開始したTVアニメ『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』の放送が延期となり、同枠にてアニメ『つり球』の再放送が2020年4月23日(木)から始まりました。同作は約8年前の2012年4月に「ノイタミナ」枠で放送開始したオリジナルアニメ。江ノ島を舞台とした青春フィッシングストーリーです。

 青春とは何かを簡潔に表現するなら? と訊かれたら、「溺れながら泳ぐこと」と答えるでしょう。自分自身でも抑えが効かないまま、花も咲かせられずあちこちに枝葉を伸ばしていく自意識と、少しのことでも傷ついてしまう若葉のような繊細さ。それでも、懸命に自分らしさを見つけようともがきつつ生きていく姿は、溺れながらも水平線の彼方を目指して泳いでいく人に似ています。

 『つり球』の主人公・真田ユキは、青春時代という海を、進む以上に沈みつつある男の子。両親がなく祖母とふたり暮らし、そのうえ小さい頃から引っ越し続きという境遇のせいか、今まで友達がいたことがありません。それどころか、おそらくある種の適応障害でしょう、対人関係のストレスやプレッシャーを感じると、般若のような顔になって硬直してしまいます。そして、押し寄せてくる幻覚の海水にまさしく溺れ、時には記憶すら飛んでしまうのです。

 そんなユキが江ノ島に引っ越してきたある日、ハルという少年が現れます。自称・宇宙人のハルは、無邪気という以上に、他人の気持ちそのものをイマイチ理解しておらず、あまり頓着もしません。どういうわけか海釣りをしたがるハルに誘われるまま、ユキは“釣り王子”こと宇佐美夏樹と出会ってフィッシングを始めます。“謎のインド人”アキラ・アガルカール・山田も加わって釣りの楽しさに目覚めるうちに、世界を救うことになっていく……という物語です。

 魚釣りでどう世界を救うのかは、アニメを見てのお楽しみ。一貫して描かれているのは、それ自体はファンタジーではない、リアルな釣りの面白さです。ロッド(釣り竿)やリールの選び方に、ライン(釣り糸)の結び方やルアーの投げ方やタモの使い方。様々なことを友達に教わり、自分自身でも学んでいくうちに、ユキが般若の顔になる機会は、次第に減っていきます。

 がむしゃらに海を泳ぎ切ろうとして溺れるくらいなら、むしろ立ち止まったまま、その海に釣り糸を垂れてみてもいい。そうして自らの手で獲物を釣り上げれば、あんなにも痛々しかった自意識の枝葉だって、前より強く瑞々しく茂るようになっているはずです。「楽しい」を分け合える友達が隣にいてくれたら、自分自身だけでなく、この世界だって救えてしまうかもしれない。『つり球』は、青春時代には誰もが抱いていた身近な苦しみと喜びを追体験させてくれる、成長物語でもあるのです。

■親近感と奇想天外さこそ、作品の最大の魅力

アニメ『つり球』キービジュアル (C)tsuritama partners 左から、主人公のユキ、“釣り王子”こと・宇佐美夏樹、“謎のインド人”アキラ、宇宙人のハル。「つり球ラジオ 好き勝手トーキング! Vol.2」(音泉)より

 ユキが作中で「世界が終わる時でも、俺は釣りをしていたい」と語るのは、本心からのセリフでしょう。常に楽しみと喜びをもたらしてくれる場所でありながら、得体の知れない何物かが潜む海。その海に向かって、何だって語り合える友達と肩を並べて釣りをする時間は、彼にとってかけがえのないものであるはずです。

 “釣り王子”こと夏樹は、ユキに教えます。アングラー(釣り人)は自分の頭で考えるクセをつけろ、魚が何を考えているか想像してルアーを投げろ、と。ユキは教えに従うことで、フィッシングのテクニックを学んでいくだけでなく、精神的にも促されて自立していきます。海の中の魚が何を考えているか想像できるようになるにつれて、自分の心に閉じこもるだけでなく、隣にいる夏樹の気持ちだって分かるようになっていきます。

 夏樹には夏樹の、ユキとは違う孤独や葛藤があります。魚の考えを想像するように、友達の心情にも想いを馳せ、正面から向き合えるようになった時こそ、ユキは変わることができるのでしょう。きらめくような恋や夢や憧れはないけれど、だからこそ親近感を覚える、それが『つり球』のドラマなのです。

 これで話が終われば、ユニークな青春ドラマの佳作と言うだけで済むのですが、そうは問屋がおろしません。

 監督は、同じ「ノイタミナ枠」で放映され、独創的な映像表現でアニメファンをアッと驚かせた『化け猫』の中村健治氏。『つり球』の物語も、セオリーやパターンを軽々と飛び越え、奇想天外かつ変幻自在に転がっていきます。ハルの海釣りには、実は楽しみ以外の合理的な目的があります。見るからに怪しいアキラ・アガルカール・山田は、これまた怪しいある組織とつながりがあり……。

 そのハルと山田の心情も最後までおろそかにせず描き切っているのは、『スイートプリキュア♪』や『約束のネバーランド』でも知られるシリーズ構成・大野敏哉氏の、匠の技と言うべきでしょうか。キャラクターデザインは、『デジモンアドベンチャー tri.』などで活躍し、『センコロール』では気鋭のアニメーション作家としても知られる宇木敦哉氏。爽やかで洗練された絵作りは、見る者の心を青春時代の夏に連れていってくれます。

 溺れる心を救いながら、思わぬ楽しみも釣り上げられる、特に釣り好きの方でなくともオススメしたい作品です。

(香椎 葉平)

※TVアニメ『つり球』(再放送)は、毎週木曜日24:55~フジテレビ「ノイタミナ」枠などで放送中。TVアニメ『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』は2020年7月16日(木)より第1話から同枠にて放送予定です。

(マグミクス編集部)

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