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『あしたのジョー』アニメ化50年。原作と少し違った「燃え尽き」描写の意味は?

マグミクス / 2020年4月30日 12時10分

『あしたのジョー』アニメ化50年。原作と少し違った「燃え尽き」描写の意味は?

■1970年放送、最高視聴率29.2%を記録

 不朽の名作マンガを原作としたTVアニメ『あしたのジョー』(フジテレビ系)が、2020年4月で放送から50年を迎えました。高森朝雄(梶原一騎)原作、ちばてつや作画によるマンガ『あしたのジョー』は、「週刊少年マガジン」にて1968年1月から始まり、TVアニメは2年遅れでのスタートでした。

『あしたのジョー』は身寄りのない少年・矢吹丈(CV:あおい輝彦)が東京のドヤ街・山谷へと流れ着き、元プロボクサーの丹下段平(CV:藤岡重慶)と出逢うことでボクシングに目覚めていく物語です。ジョーは強い者には徹底して歯向かうものの、ドヤ街で暮らすサチ(CV:白石冬美)たち子供には温かく接します。そんなジョーは、学生運動に熱中していた当時の若者たちから熱烈に支持されました。

 ジョーの人気は凄まじく、「少年マガジン」は発売部数を大きく伸ばし、男の子は段平のおっちゃんがジョーに送ったハガキ「あしたのために」を真似て、ジャブやストレートの練習に明け暮れました。TVアニメ『あしたのジョー』も好評で、最高視聴率29.2%(1970年10月14日放送分:ビデオリサーチ関東地区調べ)を記録しています。

■陰影がはっきりしたボクシングの世界

 多くの人がTVアニメ『あしたのジョー』を思い出すとき、脳裏によみがえるのがテーマ曲「あしたのジョー」ではないでしょうか。劇作家・寺山修司氏が作詞した「あしたはどっちだ?」という歌詞と、ロカビリー歌手としてのキャリアを持つ俳優・尾藤イサオさんの情感たっぷりな歌声が印象的でした。

 そして、アニメ版『あしたのジョー』を語る上で忘れてはならないのが、出﨑統(でざき・おさむ)監督の監督デビュー作だったということです。のちにアニメ史に残る傑作『エースをねらえ!』『ガンバの冒険』『立体アニメーション 家なき子』『スペースコブラ』などを放つことになる出﨑監督は、当時はまだ27歳という若さでした。

 出﨑監督は、劇画チックな止め絵、画面に差し込む入射光など、独特の演出で知られています。『あしたのジョー』は初監督作品ということで、シリーズ序盤はまだ演出スタイルは確立されていません。ですが、ジョーにとって生涯のライバルとなる力石徹(CV:仲村秀生)が登場し、物語は一気に盛り上がります。少年院のリングで、ジョーが力石に初めてクロスカウンターパンチを決めた瞬間がストップモーションで描かれるなど、ジョーと力石の熱戦に呼応するように、出﨑演出も花開いていくのでした。

 ボクシングの世界は、勝者と敗者とのコントラストがとてもはっきりとしています。『あしたのジョー』を監督デビュー作に選んだことが、光と影を効果的に使う出﨑監督の演出スタイルを確立させることにつながったのではないでしょうか。

■ジョーが世界戦に挑んだ『あしたのジョー2』

『あしたのジョー』の矢吹丈がラストで真っ白に燃え尽きたシーンのイラスト (C)高森朝雄・ちばてつや/講談社

 TVアニメ版『あしたのジョー』は、力石がジョーとの対戦直後に亡くなるという衝撃的なエピソードの後、ドサ回りを経たジョーがカーロス・リベラ(CV:広川太一郎)と闘うことで完全復活を遂げるところで終わりました(1971年9月)。原作は途中休載もあり、TVアニメ版が連載の内容に追いついてしまったための措置でした。

 原作は1973年5月に完結。それから7年後となる1980年10月に、TVアニメ『あしたのジョー2』(日本テレビ系)が放送されることになります。

 出﨑監督が再び演出を手掛けた『あしたのジョー2』では、原作の最終回までがきっちりと描かれました。劇場版『エースをねらえ!』(1979年)などで高い評価を得た出﨑監督は、すでに独特な演出スタイルを完成させていました。止め絵や入射光に加え、キラキラと輝く水面、画面の多分割など、多彩な演出手腕を見せています。

『あしたのジョー2』で見逃せないのは、やはり最終回です。ジョーはついに世界王者ホセ・メンドーサ(CV:宮本義人)とのタイトル戦に挑み、最終ラウンドまで激しい攻防を繰り広げます。真っ白に燃え尽きたジョーは、コーナーの椅子に座り込み、身動きしません。原作どおりの展開ですが、『あしたのジョー2』ではこのシーンに、ジョーがドヤ街に現れた時と同じように放浪している姿を挿入しています。

 ジョーが放浪している姿は、ジョーがかつての自分を回想しているのか、それとも試合を終えたジョーが再び旅に出たのか、どちらとも解釈できるラストシーンとなっています。原作で描かれた「真っ白に燃え尽きた」ジョーは“死んだ”という解釈が定説となっていますが、リングという檻の中で青春を過ごしたジョーを、出﨑監督は最後に自由な身に戻してあげたように思えます。

 原作者の梶原一騎氏は10代の多感な時期を感化院で過ごし、愛情に飢えていたと言われています。ちばてつや氏は旧・満州国(現在の中国東北地方)で育ち、終戦と同時に故郷を喪失しています。『あしたのジョー』に惚れ込み、アニメ化の企画を立ち上げた出﨑監督は小学1年生のときに父親を病気で失ったそうです。テーマ曲を作詞し、力石の葬儀で弔辞を読んだ寺山修司氏も、9歳の時に父親を亡くしています。

 身寄りのないジョーはいつも満たされぬ想いを抱き、その欠落感を埋めてくれる相手を求めて、ボクシングに熱中していたように感じます。最終回をめぐって、ジョーは死んだのか生きているのかが議論の的になってきましたが、もともとジョーは、生と死という概念を超越したフィクション上のキャラクターです。

 ジョーは生きていて、今も世界のどこかを放浪し続けている。出﨑監督が演出した『あしたのジョー』『あしたのジョー2』を観ていると、そんな気がしてくるのです。

(長野辰次)

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