今夜の金ロー『塔の上のラプンツェル』 子供の自立心を奪う「毒親」の怖さ
マグミクス / 2020年5月1日 16時10分
■しょこたん演じるヤンチャなディズニーヒロイン
ディズニーアニメ50作目を飾った長編アニメ『塔の上のラプンツェル』(2010年)は、高い塔の上に閉じ込められた少女ラプンツェル (CV:中川翔子)を主人公にした冒険ファンタジーです。外の世界に憧れるラプンツェルの心境は、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために外出を控えている今の私たちと重なる部分があるのではないでしょうか。2020年5月1日(金)夜21時から「金曜ロードSHOW!」(日本テレビ系)でノーカット放映されます。
ラプンツェルは幼い頃から塔の上で過ごし、髪の長さは21メートルもあります。美しい髪には不思議な力が秘められていますが、ラプンツェルの魅力はそれだけではありません。塔から飛び出して、広い世界を知りたいという夢を抱いています。『白雪姫』(1937年)や『眠れる森の美女』(1959年)といった従来のディズニープリンセスたちは王子さまが現れるのを待っていましたが、ラプンツェルは自分から行動を起こします。
塔のなかに忍び込んできた泥棒フリン・ライダー(CV:畠中洋)をフライパンで殴り倒し、長い髪を使って拘束。さらにはフリンが持っていた盗品のティアラを奪い、ティアラと引き換えに、外の世界を案内するよう迫ります。ディズニープリンセス史上、かなりヤンチャなヒロインです。
■ラプンツェルを苦しめる「毒親」の存在
グリム童話をベースにした『塔の上のラプンツェル』で興味深いのは、ラプンツェルと彼女を塔の上に閉じ込めた養母マザー・ゴーテル(CV:剣幸)との関係性です。窓から見える広い世界に憧れるラプンツェルに対し、ゴーテルは「外の世界は危険」と外出を許そうとはしません。実はゴーテルは王さまとお妃の間に産まれたラプンツェルを連れ去って、塔の上に監禁していた誘拐犯だったのです。幼かったラプンツェルは、そのことを覚えていません。
ゴーテルはラプンツェルの育ての親ですが、同時に犯罪者でもあるわけです。18歳になるラプンツェルに「お前はドジで、常識知らず」と言葉の暴力を振るい、「お前のためを思ってのこと」「お前をいちばん愛している」と猫なで声で懐柔します。
言ってみれば、ゴーテルは「毒親」です。ラプンツェルの長い髪には不思議な力があるので、ゴーテルは手放したくないのです。ヤンチャなラプンツェルでも、幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた「毒親」ゴーテルから逃げ出すのは容易ではありません。時に恐ろしく、時に優しい一面も見せる「毒親」との闘いは、多くの人たちが苦しみ続けているリアルな問題でもあります。
■大人になっても、心に残り続けるトラウマ
『チェンジリング』Blu-ray(ジェネオン・ユニバーサル)
モンスターペアレントとも呼ばれる「毒親」は、子供に「しつけ」と称して暴力を振るう、食事をさせないなどの虐待行為を繰り返します。悲しいことに、虐待を受けた子供たちは、自分に非があると思い込んでしまいます。また、子供に過干渉したり、親の価値観を押し付けたりすることも毒親の特徴に挙げられます。
さらに毒親が恐ろしいのは、大人になって実家から離れて暮らすようになっても、子供の頃の体験が強く残ってしまうことです。結婚して自分が親の立場になると、自分も子供を平気で傷つけてしまうのではないかという恐怖心を抱いてしまいます。いつまでも毒親の影響から、逃れることができません。「毒親」ゴーテルはとても厄介な存在です。
また、米国では幼児を誘拐し、監禁する事件が多く、クリント・イーストウッドが監督した『チェンジリング』(2008年)、ブリー・ラーソンがアカデミー賞主演女優賞を受賞した『ルーム ROOM』(2015年)などのシリアスドラマが制作されています。監禁生活を送った男の子が実社会に適応できるようになるまでを、ユーモラスに描いた『ブリグズビー・ベア』(2017年)というユニークな作品もあります。どれもDVD化されているので、興味のある方はぜひご覧になってみてください。
■願いごとを叶えてくれる「スカイランタン」
話題を『塔の上のラプンツェル』に戻しましょう。本作のなかで特に有名になったのは、数え切れないほど多くの灯りが夜空を舞う場面です。塔の上から眺め続けていたラプンツェルは、夜空に輝く灯りの秘密をようやく知ることになります。ヒロインの夢が叶う、とてもロマンチックなシーンです。
このシーンのモデルとなっているのは、タイのチェンマイなどで行なわれている「スカイランタン」と呼ばれるお祭りです。チェンマイでは毎年何万もの紙で作ったランタンが幻想的に夜空に浮かび、世界最大のランタン祭りと称されています。台湾で行なわれている「ランタン祭り」も有名です。台湾ではランタンに願いごとを記し、ランタンがうまく空に舞えば、その願いごとは叶うと言い伝えられているそうです。
新型コロナウイルスの影響で、福岡市を代表する夏祭りである「博多祇園山笠」をはじめ、日本各地の夏祭りは中止されることが次々と決まっています。「博多祇園山笠」などの夏祭りは、疫病や災厄退散などを祈願することを目的に始まったものが多いので、中止はとても残念に思います。外に出て、大勢の人たちと一緒に楽しむ夏祭りや花火大会の開催は当面は難しそうですが、せめて『塔の上のラプンツェル』のランタンが夜空を舞うシーンに、願いを込めたいと思います。早く、外の世界を自由に歩けますように。
(長野辰次)
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