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『うしおととら』藤田和日郎とヤマハ開発者が語る、「白面の者」とバイク「R6」の誕生秘話

マグミクス / 2020年5月3日 8時50分

『うしおととら』藤田和日郎とヤマハ開発者が語る、「白面の者」とバイク「R6」の誕生秘話

■大きな壁を超えるため受け継いだ、白面の「眼」

 少年マンガの名作『うしおととら』最大の悪役キャラ「白面の者」が、ヤマハのスーパースポーツバイク「YZF-R6」のデザインモチーフに取り入れられたことが2019年春に明らかになり、バイクファン、マンガファンの間で話題となりました。

 この出来事をきっかけとして、もともと「バイクが好き」だったという藤田和日郎先生と、「YZF-R6」(以下、R6)の開発を主導した、ヤマハ発動機・平野啓典さんの対談が実現。「R6」の実物を見ながら、白面の者とR6の誕生秘話、そして、互いのモノづくり、作品づくりについて語り合ってもらいました。

* * *

――「白面の者」のモチーフが取り入れられた「YZF-R6」(以下、R6)は、2017年に登場した海外向けモデルで、前方のポジションライトが白面の者の「眼」を彷彿させます。どのような経緯で、白面の者がデザインに取り入れられたのでしょうか?

平野啓典さん(以下敬称略) R6の先代モデルは「死ぬほどかっこいい」デザインと高く評価されていて、社内にも「デザインは変えなくていいよ」という声があったほどでした。私たち開発メンバーは逆にそれで火がついて、10年ぶりにモデルチェンジするR6を「必ず先代を超えるデザインにしよう」と意気込んでいました。

「凄みをまとった未来感」をキーワードに、生命感のあるフェイスデザインを目指してスケッチをいくつも起こしましたが、どうしても既存の製品に近いものになってしまう。そうして追い詰められていった末に、担当デザイナーがスケッチの「眼」の部分にふわっと描いた線ーーその線を見て、白面の者が思い浮かびました。

 藤田和日郎先生が『うしおととら』で描いた、白面の者の凄み。これをモチーフにしたら、今までにないものを生み出せるのではないか? と話し合い、R6の眼に取り入れることにしたのです。

藤田和日郎さん(以下敬称略) 実物を間近で見て良くわかったんですが、R6の眼のラインは、「まさに自分が描いたラインだ!」と思いました。白面の眼も基本は三白眼なんだけど、僕が描く眼は下側のラインがふくらむ位置に特徴がある。アニメ化の際にここがうまく再現できなくてやりとりしたことがあったんですが、R6の眼は白面をじっくり観察して作られたんだな、と感じます。

『うしおととら』の白面の者の眼(上)と、「YZF-R6」のポジションライト(下) (C)藤田和日郎/小学館

平野 実は、平面に描かれた白面の眼を3次元で再現するのには苦労もありました。うねるような生命感が出るようにと、試作品をいくつも作って検証しながら、LEDライトの形や構造を作り込んでいきました。

藤田 もともと白面の眼は、作家さんが骨格から眼球まで全て手作りする「生き人形」を参考にしているんです。「なんでこんなに眼力があるんだろう」と観察して描いたその眼力が受け継がれて、いまR6の眼になっているのは感慨深いです。

 自分のような漫画家は、ありったけの感情や主観を込めて作品を描いているけれど、バイクの設計には感情とかはなくて、空力特性や細部の機能といった「合理的なもの」をミリ単位で作っているものだと思っていました。今回、バイクを作る平野さんたちも「死ぬほどかっこいい」とか、「凄みをまとった未来感」とか、感情的で主観的なものも大切にしながら花開かせていくんだとわかって、とても嬉しいです。

■描くごとに深まっていった、「白面」の本当の姿

東西の妖怪たちと人間が結集した最終決戦において、白面の者に挑む潮ととら (C)藤田和日郎/小学館

――白面の者は『うしおととら』の物語全体を通じて、強大な力や恐ろしさを読者に印象づけました。藤田先生は白面の者というキャラクターを、どのように形作られたのでしょうか?

藤田 それまでの「悪い奴」のイメージというのは、「お前らが俺に勝てるわけがない」と上から見下すような存在が多かったので、そうではない新しいキャラクターを作りたいと考えていました。

 普通に悪そうなものを描くなら三白眼が適しているんですが、三白眼だとどうしても下から睨(ね)め上げる、姑息な感じがするので、姑息じゃない形で強大な悪を描くにはどうするか。そこにあったのが「意思の力」です。

 白面の者にたぎる、人間に対する憧れや嫉妬の気持ち。「あれになれないのだったら滅ぼしてしまえ」という意志の力が、白面を強大たらしめていたんです。

 また、今なら言えますが『うしおととら』は自分にとっての連載デビュー作。当時、周りに上手い人や、面白いマンガを描く人がいっぱいいるなかで、「ちくしょう、絶対この世界で生き残ってやるぞ」という自分の思いも込められていたと思います。

ーー最終決戦のラストシーンで、白面の者が「弱さ」をあらわにし、白面を憎み続けてきたとらが「憎しみ」を乗り越えるという展開が、とても印象的でした。

 最初からそれが決まっていたわけじゃないんです。白面の強さや恐ろしさを描きながら、「こいつの弱さって何だろう? なんでこいつはこんな行為をするんだろう……?」と、ずっと考えていた。何かを欲しているのを隠しているのか……人間という存在が羨ましいと思っているんじゃないか……と、自分の疑問に答える形で描いてきて、最後の最後に「ああ、なるほどそうだったのか」という展開ができてきた。

 こうやってエピソードを描くごとに、物語が深まり熱くなっていくのは、マンガ連載の醍醐味だと思います。

■マンガの「読後感」は、モノづくりの道しるべにも?

『うしおととら』の主人公・潮を助ける青年、秋葉流。才能に恵まれ、潮も憧れる兄貴分だが、ある思いを胸に、物語終盤で白面の側につくことになる (C)藤田和日郎/小学館

ーー藤田先生は『うしおととら』で、バイクに乗る人物・秋葉流(あきばながれ)を登場させています。流は主人公・潮の兄貴分として彼らを助け、物語の終盤まで重要な役割を果たします。

藤田 バイクは男の憧れで、かっこいいものですからね。うしおと仲良くなる兄貴分はバイクに乗っていなきゃいけない。

また、「ギャップ」という考え方もありました。『うしおととら』では、現代のビルや乗り物などを背景に妖怪たちが活躍するというギャップで「妖怪もの」の新しさを表現していましたが、「現代」の象徴であるバイクに僧侶が乗って、さらに錫杖を持って戦うというのも新鮮で……もともとバイクが好きだったこともあって、描いていて楽しかったですね。

ヤマハ発動機・平野さん(奥)と、「YZF-R6」にまたがる藤田和日郎さん(小林俊樹撮影)

ーー藤田さんと平野さんの活動分野は違いますが、ものづくりや作品づくりについて、おふたりの間に相通ずるものがあるとしたら、どんなところでしょうか?

平野 昨年まで全国各地で開催された、画業30周年の「藤田和日郎原画展」のパンフレットに、「読後感からスタートしてストーリーができていく……」という先生の言葉が書かれていて、読んだ時に「目からうろこ」だったんです。

 私たちはお客さんがバイク乗っている時のことを一生懸命想像して商品コンセプトを作っていくんですが、「読後感」、バイクでいえば乗り終わったあとに残る感覚というところまで想像していけば、お客様に「経験」や「成長」といった価値まで提供できるんじゃないかと思いました。

 例えば、今はハイテク化で乗り手の負担を軽減する方向でバイクを作っていますが、バイクを降りたあとの心地よい疲労感や幸福感を考えて、「少し苦労する部分をあえて残す」という考えもあっていいんじゃないかと。

藤田 マンガでいう「読後感」というのは、灯台の明かりみたいなものなんです。漫画家というのは、絵を描くのが誰よりも好きな人間の集まりなんだけど、何を描けばいいかわからなくなる瞬間もある。そんな時、読んだ人に何を感じて欲しいかーー例えば恐怖だったり感動だったりーーを決めておくことで、進むべき道を見失わないようにするという意味なんです。

 何かを作る時に、受け取る人のことを一生懸命考える。平野さんたちが「このバイク好きになってもらいたいなぁ」と思うのと、僕が「読者にこういう風に感じてもらいたいな」と思うところは共通なんだなぁと思います。

平野 藤田先生が絵に注ぎ込む熱量は本当に凄いです。R6の開発中に『うしおととら』全巻を読み直したんですが、「小さな単行本からこれほどのエネルギーをもらえるのか」と、胸が熱くなりました。

藤田 バイクの作り手としてのお話をたくさん聞けて、本当に嬉しかった。これからもお仕事を頑張って下さい。いつかまた、マンガのなかでバイクを描いてみたい。その時はぜひこの「R6」を描きたいですね。

●藤田和日郎さんの最新作『双亡亭壊すべし』は、「週刊少年サンデー」(小学館)で連載中。既刊16巻。『うしおととら』(全33巻)のうち、1巻~5巻がマンガアプリ「サンデーうぇぶり」にて、2020年5月14日まで無料公開中です。

●ヤマハ「YZF-R6」は、日本国内ではプレストコーポレーションにより輸入販売されています。現行モデルのボディカラーはブルー、ブラック、オレンジの3種類となります。

※本記事は2020年3月16日に実施した取材をもとに制作しています。

(取材・構成:マグミクス編集部)

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