再放送決定の「ザ・ベストテン」 忘れられない杏里と「CAT'S EYE」の思い出
マグミクス / 2020年5月3日 18時10分
■起きているのが大変だった「ザ・ベストテン」
1978年から1989年にかけてTBS系列で放送された歌番組「ザ・ベストテン」が、2020年6月からTBSチャンネル2で再放送されます。日本テレビの「ザ・トップテン」とともに当時の流行歌をお茶の間に届けてくれていた「ザ・ベストテン」は、司会を務める黒柳徹子さんと久米宏氏の絶妙な掛け合いも好評を博していました。子供のころ、眠い目をこすりながらTVの前に陣取っていたライターの早川清一朗さんが、当時の記憶を語ります。
* * *
木曜の夜9時は、まだ子供だった筆者にとって試練の時間でした。TBSで放送されていた「ザ・ベストテン」は9時からだいたい10時くらいまで放送されており、流行歌の最先端を教えてくれる貴重な存在でしたが、夜遅くの番組だったので、厳しい眠気との戦いを強いられていたのです。
それでも、「ザ・ベストテン」を見ておけば、翌日はクラスの話題の中心になれるので必死でした。今日はチェッカーズが1位だった、松田聖子はすごく奇麗だった、マッチはカッコよかった……などとワイワイ騒ぎながら、知っている歌をみんなで歌う。あのころは、あちらこちらで見かけた光景だったと思います。
どうしても何度も聞きたい歌があるときは、親のラジカセを借りて、カセットテープで歌を録音しようとTVの前で息を殺していたこともしばしばでしたが、父親の「今帰った!」という声や、母親の「早く寝なさい!」という声が入ってしまい、がっかりしたことも何度もありました。
そういう音声はすぐに上書きして消してしまいましたが、今となっては、そういう音声こそ残すべきだったのではないかという思いが頭をよぎることがあります。
そんなある日のこと、新聞のTV欄を見ていた筆者は、その日の「ザ・ベストテン」に歌手の杏里が出演することに気付きました。ちょうどこの頃、北条司氏のマンガを原作としたアニメ『キャッツ♥アイ』が放送されており、杏里はその主題歌の「CAT’S EYE」を歌っていたのです。
アップテンポなリズムのこの曲には英語の歌詞が大量に盛り込まれ、従来のアニメソングとは一線を画す存在でした。「CAT’S EYE」以後、普通の歌謡曲がアニメで当たり前に使われるようになったほどの影響力があり、アニソンのターニングポイントとなった曲とも言えるでしょう。
■アニソンの世界に新風を吹き込んだ「CAT'S EYE」
アニメ・ミュージック・カプセル「キャッツ・アイ」(SOLID)。杏里さんの歌う「CAT'S EYE」を収録
今でこそアニソンは一般化し、しばしば特集番組が作られるほどの人気ですが、1980年代は一般の歌謡曲よりも数段下の扱いを受けていました。例外はゴダイゴの「銀河鉄道999」やH2Oの「みゆき」「思い出がいっぱい」くらいだったでしょうか。レコード会社によってはアニメソングを非課税の『童謡扱い』としているところもあったのです。
そんな状況だったので、杏里が「ザ・ベストテン」に登場するというのは子供心にもかなりの驚きでした。杏里がどういう人なのかも見たいし、レコードを買わなければ聞けないフルバージョンも流れるかもしれない。夜が楽しみで楽しみでたまりませんでした。
そうして迎えた夜の9時、ついに「ザ・ベストテン」が始まりました。いつものように登場する久米宏氏と黒柳徹子さんの軽妙なトークを聞きながら、今か今かと杏里の出番を待ち構えます。
パタパタパタ……とめくれていくランキングボードを眺め、今週は他に誰が出るんだろう、次こそは杏里かな? と、流れる歌謡曲を楽しみながら、眠気が来ないように祈りつつ、そのときを待ちました。
やがて登場した杏里は、ものすごく奇麗なお姉さんでした。久米さんと黒柳さんとのやり取りの後、ステージに上がって堂々と「CAT’S EYE」を歌い上げてくれました。
後で知ったことですが、杏里はアニソンをあてがわれたことにショックを受けていたそうで、レコーディング直前にスタジオを飛び出しドタキャンしようとしたのだそうです。当時のアニソンの地位を考えれば、無理もありません。それでも最終的にはしっかりと責任を果たして歌い上げてくださったのは、プロとしての矜持なのでしょう。
また、調べてみたところ、杏里が「ザ・ベストテン」に初登場したのは1983年の9月15日であることもわかりました。最初は7位で、その後徐々に順位を上げていきますが、中森明菜の「禁区」の壁を破れず6週連続2位に甘んじます。しかし11月10日、「ザ・ベストテン」300回記念放送の際に、ついに1位に輝いたのです。杏里や関係者、そして「CAT’S EYE」を後押ししたファンの感慨も、ひとしおだったのではないかと思います。
その後も多くのヒット曲を世に伝え続けてきた「ザ・ベストテン」ですが、時代の波に押され、1989年に終了してしまいました。最高視聴率は41.9%。記録にも記憶にも残る、時代を代表する番組でした。
(ライター 早川清一朗)
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