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ひろし役・藤原啓治さんを偲ぶ 理想の父親像を描いた名作『逆襲のロボとーちゃん』

マグミクス / 2020年5月5日 9時50分

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■ダンディーなキャラが似合った藤原啓治さん

 アニメ『クレヨンしんちゃん』(テレビ朝日系)の父親・野原ひろし役で、広く親しまれていた声優の藤原啓治さんが、2020年4月12日に亡くなられました。まだ55歳という若さでした。アニメ『鋼の錬金術師』(2003年版・2009年版、TBS系)の愛妻家で子煩悩なマース・ヒューズ中佐、『交響詩篇エウレカセブン』(TBS系)の主人公が憧れるホランド・ノヴァックなど、ダンディーだけど、ちょっと癖のある大人の役がピタリと合っていました。

 洋画『アイアンマン』(2008年)では、トニー・スターク(ロバート・ダウニーJr.)の日本語吹き替えを担当しました。トニー・スタークは大企業の社長ですが、藤原さん自身も声優のマネジメントを中心にした「AIR AGENCY」を2006年に立ち上げ、代表取締役を務めていたことが知られています。

 劇場版「クレヨンしんちゃん」シリーズは、ABEMAビデオなどで現在ネット配信されています。その中から、藤原さん演じる野原ひろしが大活躍した名作3本をご紹介します。

■大人になる喜びを教えてくれた

「大人も号泣した」と絶賛されたのが、原恵一監督が撮った『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)です。いつもは強烈な足の臭いで家族から嫌われている野原ひろしですが、『オトナ帝国の逆襲』は臭いそのものが大きなモチーフとなっています。

 ノスタルジックさに満ちた「20世紀博」に行って以来、ひろしも妻のみさえも大人であることを放棄して、働かなくなってしまいます。ひろしはすっかり幼児退行していたものの、息子のしんのすけに自分の足の臭いをかがされ、正気を取り戻します。このシーンでは、ひろしが田舎で育った少年時代、学生時代の初恋と失恋、上京しての就職、みさえとの出会いと子供たちの誕生までの記憶が走馬灯のように描かれました。

 ひろしの足の臭いは、一家の大黒柱として働く者の生活臭でもあったのです。足は臭うようになったけれど、大人になり、家庭を持つことの喜びをひろしが思い出す、名シーンとなっています。

 同じく原恵一監督が撮った『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』(2002年)も、評価が高い作品です。戦国時代にタイムスリップしたしんのすけを追って、ひろしは危険を顧みずに助けに向かいます。ひろしとしんちゃんとの親子の深い絆を感じさせます。

■家族とは血でつながった関係なのか

『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』 (C) 臼井儀人 / 双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2001

 もう一本見逃せないのは、『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』(2014年)です。『天元突破グレンラガン』(テレビ東京系)などで知られる脚本家・中島かずき氏がシナリオを担当し、SF色の強い作品となっています。

 中島かずき氏は「双葉社」の社員編集者として働きながら、舞台やアニメ作品の脚本も執筆するというスタイルを長年続けました。『クレヨンしんちゃん』の原作者である漫画家・臼井儀人さんの編集担当でもありました。2009年に亡くなった臼井さんへの想いが感じられる感動作に、『ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』は仕上がっています。

 ぎっくり腰を患ったひろしは治療を口実に、無料のエステを受けることに。元気な体になって自宅に戻ったひろしは、自分がロボットになっていることに驚きます。しんちゃんはロボットになって帰ってきた父親に大喜び。最初は警戒していたみさえも、家事も仕事も疲れ知らずでバリバリとこなすロボとーちゃんに心を許すようになります。

 実はひろしがロボットになったのは、父親の権威を取り戻そうと考える「ちちゆれ同盟」の仕業でした。「ちちゆれ同盟」の秘密基地に拉致されていたひろしは無事に生還しますが、野原家に生身のひろしとロボットのひろしがふたりいることになります。ふたりのひろしは、野原家の父親の座を賭けて「腕ずもう」対決に挑みます。ひろしとひろしが全力で闘うこのシーンは、家族とは血でつながった関係なのか、それとも情や思い出で結ばれた関係なのかを問いかける非常に興味深いシーンとなっています。

■最期まで闘い続けた社長

 藤原さんは病気療養のため、2016年から一時休業しました。野原ひろし役は森川智之さんに譲ることになりましたが、2017年からは声優に再び復帰し、『アベンジャーズ/インフィニティー・ウォー』(2018年)や『アベンジャーズ/エンド・ゲーム』(2019年)でアイアンマンことトニー・スタークの吹き替えをしています。

 シリーズ初期のトニー・スタークは チャランポランな社長のイメージが強かったのですが、『インフニティー・ウォー』、そしてシリーズ最終作『エンド・ゲーム』では仲間や家族のために体を張って戦うことになります。藤原さんは“戦う社長”トニー・スタークと自分を重ね合わせながら、吹き替えに臨んでいたのではないでしょうか。

 生涯独身だった藤原さんですが、作品のなかでは父性を感じさせるキャラクターを見事に演じてみせました。家族や部下想いで、無邪気な一面も持ち、自分の弱さを認める度量があり、そしていざとなると誰よりも頼りになる大人の男。藤原さんが演じてきた野原ひろしは、平成時代を象徴する理想の父親像だったように思います。

(長野辰次)

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