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吉田戦車の傑作マンガ4選。「不条理ギャグ」を確立、作者自身が葛藤した作品も

マグミクス / 2020年12月5日 17時50分

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■今こそ読みたい! めくるめく不条理ギャグワールド

 「不条理ギャグ」「シュールな笑い」というものが日本に定着して久しいですが、ギャグマンガシーンにおいてそのジャンルを確立したのが、吉田戦車とされています。もちろん、吉田戦車の登場以前にも、いがらしみきお『ネ暗トピア』など、不条理ギャグマンガの土壌は出来上がってこそいましたが、このジャンルで全国区的な人気を獲得したのが吉田戦車といえるかもしれません(ご本人はこの評価が当初、とても苦手だったそうです)。彼の作品は、のちのマンガ界のみならずエンタメ業界全般に影響を与えました。

 その人気は現在でも高く、2020年12月10日(木)~12月21日(月)の期間、「ビッグコミックスピリッツ創刊40周年」の企画として、池袋マルイで『クマのプー太郎』(中川いさみ)、『コージ苑』(相原コージ)などの作品と一緒に『伝染るんです。』の原画展が開催されます。

 不条理とは? ギャグとは? そんな難しい話は抜きにして、魅惑の吉田戦車ワールドを堪能できる4作品を紹介したいと思います。

●哲学者も唸った伝説の作品、『伝染るんです。』(全5巻)

 吉田戦車の名を一躍スターダムに押し上げた作品であり、その後のギャグマンガシーンに多大な影響を与えた作品です。1989年から1994年にかけて『週刊ビッグコミックスピリッツ』で連載されました。

「不条理ギャグ」ながらも人気キャラクターが数多く誕生したこの作品。大学受験を控えるカブトムシの斎藤さん、やたらと卑屈なカワウソくん、愛を知らぬしいたけ、イルカのような体をした山崎先生など、キテレツながらいじらしいキャラクターたちが不条理ギャグ世界の水先案内人となってくれます。

 単行本の装丁はブックデザイナーの祖父江慎氏が担当。作品の世界観にあわせ、あえて乱丁しているかのように見せる前代未聞の演出が施され、これもまた大きな話題を集めました。

 この作品はのちのギャグマンガのみならず、お笑い界や映画界などエンタメ全体に多大な影響を与えました。哲学者・永井均の著作では「新しい文字を発明した少年」の4コマなどが取り上げられ、アカデミックな分野にも衝撃を走らせました。今読んでも間違いなく笑える、不朽の傑作ギャグマンガです。

●「不条理ギャグ」×「下ネタ」…一体どうなる!?『スカートさん』(全1巻)

単行本『スカートさん』(KADOKAWA)

 吉田戦車の不条理ギャグに「下ネタ」を取り入れたのが、2008年に発売された『スカートさん』です。連載開始時は「吉田戦車が下ネタ?」と注目を集めましたが、蓋を開けてみればこちらも大爆笑必至の傑作となりました。

 天才・吉田戦車からすれば下ネタはギャグの手段でしかないようで、「恋をするとトップレスになる女子大生」「人間と木のリアルな愛憎劇」「正常位という名前の少年の苦悩」などなど、決して下品にならないラインで見事にギャグと下ネタを融合しています。

 とりわけ「トップレス女子大生」のシリーズは笑いながら読み進めるうちに「そもそもなんで裸ってダメなんだっけ?」と、読む側の常識がぐらつく感覚が味わえます。もちろん下ネタのない四コマも多数収録されており、「自分の感情にあわせて表情を後から描くのっぺら坊」シリーズなど、頭の奥底を揺さぶるギャグがてんこ盛りです。

■作者自身がが「好きじゃなかった」と公言するも、人気作に…

●“風呂”だけの四コマを量産!『フロマンガ』(全4巻)

『フロマンガ』第1巻(小学館)

 お風呂をテーマにしたマンガといえば『テルマエ・ロマエ』(ヤマザキマリ)が有名ですが、こちらの『フロマンガ』もぜひ手にとってみて欲しい作品です。タイトルの通り「お風呂をテーマにギャグ」という、実にストイックな縛りを設けた作品です。こちらは『ビッグコミックオリジナル』で連載されました。圧倒的なセンスと無尽蔵とも思える量産性を兼ね備えている吉田戦車だからこそ可能だった作品と言えそうです。

「年頃の娘がお父さんと一緒にお風呂に入らなくなるまでの日数を数えるカウンター」というアイテムから派生した父親の悲哀を描くシリーズなど、毎回切れ味抜群のギャグを飛ばしてくれるこの作品。また風呂をテーマにしているだけあってか、不条理ギャグの中に人間味を醸し出す、そんな吉田戦車ワールドに肩まで浸かれる珠玉のギャグマンガです。

●「悲哀」×「ギャグ」を実現した異色作『いじめてくん』

単行本『いじめてくん』(太田出版)

 最後に紹介するのは四コママンガではない作品です。主人公“いじめてくん”は何とも情けない顔つきで、常にオドオドした1頭身のキャラクター。その雰囲気は周囲の嗜虐心を煽りに煽り、実際にいじめてしまうと……爆発!いじめてくんの正体は“嗜虐心”につけ込んで開発された生物爆弾なのです。その後、いじめてくんはお坊さんの修行に使われたり、テロ組織に狙われたり、急に火星に行ったりと、さまざまな場面で人々の嗜虐心を煽りまくります。

 一方、作者の吉田戦車本人は“いじめ”という行為自体をギャグマンガのネタにしてしまったことを当初、とても後悔していました。その作者の心理を反映してか、徐々にストーリーにも変化が。いじめてくんは自身の存在意義に苦悩し、やがて自立を目指していく成長物語へ転換されていきます。あらゆることをギャグにしてきた吉田戦車が唯一、いじめだけはギャグにできなかったという点は、昨今話題の“誰も傷つけない笑い”にも通じ、吉田戦車作品が今もなお愛され続ける理由を紐解くヒントになるかもしれません。

 ここまで紹介した4作品の他にも、架空の県を舞台にした『ぷりぷり県』、吉田戦車作品を代表するキャラクターも数多く登場する『殴るぞ』、育児エッセイマンガ『まんが親』など、実に多くの作品が生み出されています。興味のある方はぜひ一度、吉田戦車の「不条理ギャグ」の世界に触れてみてはいかがでしょうか。

(片野)

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