『シャーマンキング』読者がヒロイン・恐山アンナに「安心」するのはなぜか?
マグミクス / 2021年3月25日 17時10分
■恐山アンナは「理想の上司」…?
完全新作テレビアニメの放送が、いよいよ2021年4月1日(木)に迫ってきました。そこで改めて『シャーマンキング』の魅力に迫りたいと思います。前回は主人公・麻倉葉に注目して、主人公と周囲の性格づけがバトル作品の定番とは逆になっている点、それがシャーマンを題材とする同作ならではのものであると考察しました。
今回は、何かと「ユルい」と言われる主人公とは対称的な、厳しすぎるヒロイン・恐山(きょうやま)アンナについて紐解いてみたいと思います。
アンナは、終始ブレることのない絶対的な存在として描かれています。「シャーマンキングの妻になる」「麻倉葉をシャーマンキングにする」「そして楽な生活をする」という明確な信念があり、葉がその条件を満たしていないと感じると、容赦なく修行を課すなどしてそこに向かわせます。このような鬼嫁タイプのヒロインは珍しくありませんが、アンナほど徹底しているケースはあまりないかもしれません。
アンナに限らず、武井先生の描く女性には芯の強いキャラクターが多いのですが、アンナは別格で、首尾一貫して言動がブレません。そういう強さに当時の読者は憧れ、同年代の友達というよりは、厳しいながらも自分を導く存在……理想の上司とか親とか、そういう位置づけとして受け止めていた人が多かったように思います。
ところで当時、武井先生はある種の「スターシステム」を取り入れていました。スターシステムというのは、キャラクターを役者としてとらえる考え方で、同じ俳優が世界観も設定も異なるさまざまなドラマに違う役で登場しているようなものです。古くは手塚治虫先生が積極的に取り入れていました。
恐山アンナは、読み切りマンガ『ITAKOのANNA』以来、武井先生にとって重要なキャラとなり、連載デビュー作『仏ゾーン』にも登場し、満を持して『シャーマンキング』に登場しています。
しかも、メインヒロインとなればその存在感はとても大きいわけですが、では本作での彼女がなぜ厳しい性格なのか、彼女に与えられた役割とは一体何なのかを考えてみます(なお、物語が進むにつれ、本作のアンナはスターシステムによる存在ではないことが明確になりました)。
■葉の「信念」を擬人化した存在?
『SHAMAN KING KC完結版』34巻(講談社)では、シャーマンファイトの最終局面で、恐山アンナが重要な「届け物」を用意して駆けつけるという、頼もしいシーンが描かれる
実は、作品の構造的な面から考えると、恐山アンナというキャラクターは、麻倉葉の信念を擬人化したものと言うことができるでしょう。
例えば、葉は「努力をすれば結果はついてくる」という意味で「なんとかなる」と言い、一方で「無理をしすぎても辛いだけで結果は出ない」から「無理をしない」と言っていますが、このバランスを自分でコントロールすることは大変ですよね? 葉自身も、当初はこの言葉に甘えていて努力不足だった感は否めません。しかし彼も頭ではわかっていたはずです。それを擬人化したのがアンナです。ですから彼女は、徹底的に葉に努力を迫ります。
また、葉は思想の違いを理由に相手を排除することはありませんし、むしろ寛容な心で受け入れたりもします。しかし、彼が何を考えて行動したのかの理由が必ずしも語られるとは限りません。そこでアンナが理由を説明するといった場面もあります。それがただの予想ではなく、あたかも正解として提示されるのも、アンナが葉の信念のアバターだからだと言えます。
このように、葉の内面や信念、ブレてはいけないものを外に配置することにより、「何かあったらアンナを見れば良い」という基準が生まれます。私たちはさまざまな場面で「迷ったら基本に戻れ」と言われることがありますが、本作ではアンナこそが『シャーマンキング』という作品の基本中の基本なのです。ですから、彼女が迷ったり状況に流されたりすることはあり得ません。
作品は作者が考えたものであるにもかかわらず、勝手にキャラクターが動いてしまい意図しない方向に進むことがあるものですが、たとえそういうことが起きてもアンナだけはブレないことが決まっているので、何かあったら彼女の言動に戻ってくればいいと言うこともできます。
本作におけるアンナの役割がいかに重要か、おわかりいただけたでしょうか? アンナの厳しさは、作品が持つテーマの壮大さや重さ、それに挑む葉の覚悟の現れといえます。作品全体の雰囲気が持つユルさの陰にそういうものを感じていただければ、見方も変わってくるかもしれません。
そして、重要な役割を担いつつも、アンナも劇中ではひとりの人間として描かれているので、彼女が抱くさまざまな感情や想いも読み解きながら、作品を楽しんでみてはいかがでしょうか?
それでは今回はこの辺で。次回はいよいよアニメ放映後ということで、筆者もここで触れることができるのを楽しみにしています!
(タシロハヤト)
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