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「中抜きしてる」「監査必要」と非難も…2次避難所での食事提供 「予算と人員を考えると難しい」現実とは

まいどなニュース / 2024年3月14日 6時50分

医王山のふもとに建つ温泉旅館(提供:法林寺温泉)

石川県内の金沢市以南、隣県のホテルや旅館、民泊などの宿泊施設の中には、2次避難先として現在も被災者を受け入れています。そういった施設への非難に対し、温泉旅館の経営者が実態への理解を訴えています。

富山県南砺市で温泉旅館「法林寺温泉」を経営する中川さんは、能登半島地震で被災した人の受け入れを1月から開始しました。そんななかで国会議員が2次避難先の宿泊施設で出された弁当のおかずの少なさを指摘した記事を発見。ほかにも、食事がなく2次避難所への移動を断念したという内容の報道もありました。

中川さんの宿は「素泊まり」を選択しての2次避難所ですが、食事付きへの宿のおかずに対して、「こんな食事でいいのか」「中抜きしてるんじゃないか」「監査必要」といったコメントを見て、宿泊施設そのものが「非難対象になってるのにショック」を受け憤りを覚えたそう。その背景や受け入れの経緯について聞きました。

施設への支給額は? 計算してみると…

「法林寺温泉」は富山県の南西部にある南砺市にある温泉旅館で、全14室を中川さんと共同経営者、数人のスタッフで切り盛りしています。地震により温泉に砂が上がるなどの被害がありましたが、無事復旧。

1月15日に石川県の要請を受けた富山県・旅館組合・南砺市から、それぞれFAXやメールで2次避難受け入れ可能かどうかの問い合わせがあり、「1日3食付き」と「素泊まり」の条件があり、中川さんは「素泊まり」で受け入れると回答しました。

提示された施設への支給金額は、1泊の上限は3食付きで上限1人1万円、素泊まりは上限1人8000円。「観光客とは異なり1日中滞在されることと、人員と予算で考えると、協力できるとしたら素泊まりという判断でした」と中川さん。

そういった背景から、「国会議員の方も、全く事情を分からないまま問題にしていることが問題ではないかと。宿への支給金額が食事付き上限1万円、食事なしで8000円は確認すれば事前に調べられる。予約サイトを見れば、通常は1泊2食付きで1万円前後、むしろそれ以上の料金設定が多いとわかるはず」。

普段なら2食のところが3食に増えれば、人件費・光熱費などの費用とともに宿への負担は大きくなります。「素泊まりと3食付きの差額は、単純に引けば2000円。3食2000円で、2000円を3で割ったら約666円、消費税を抜いたら600円になるのです。しかし、仕入れや調理への人件費などを考えると600円分をそのまま出せるわけがないのです」。

原価を支払えば、目の前に弁当が出てくるわけではない

中川さん自身も2次避難先を続ける上で、被災者にとって3食付きのほうがいいのではと検討したことから、その大変さを痛感したと言います。

これまで食事を注文していた2軒の仕出し店に、予算と1日3食という条件を提示したところ、「毎日メニューを変えないといけないので、手間と材料費を考えると難しい」「1食800円以上で1200円配達料がかかってしまいます」という返事でした。

次にスーパーで購入したパンや弁当を提供できないかとも検討。2軒のスーパーに打診しますが、週末は弁当の配達を行ってない、人手が足りず毎日配達できないと言われてしまいました。しかし自身の宿でも、コロナ禍の影響で、従業員が減ってしまっており、受け取りに行くための人員に余裕がありません。

「コメントで弁当は原価100円もしないと言う人もいましたが、原価が100円だとしても100円貯金箱に入れたらお弁当が現れるの?という話です」。人出と予算が足りずに断念した中川さんには、”善意からなる”批判に潜む、宿の実情に対する無理解が見過ごせなかったようです。

素泊まりでの協力となった理由

ちなみに、「法林寺温泉」の通常の宿泊料金は、素泊まり平日4650円~、1泊2食付き平日9300円~(1人料金+500円、時期やコース内容により異なる)。そのため、支給額の上限である8000円ではなく、6800円で受け入れています(被災者は無料での利用)。

「『いくらで提供できますか』と聞かれました。通常であれば夕方4時に来られる方が多く、翌朝10時でチェックアウトされます。そこで、延長料金の1650円、1名での個室利用の500円を足すという計算で算出しました」

それでも人件費などを考えると、利益に結びつかない額だそうです。期間は3月31日までで、4人宿泊できる客室を5部屋、2人用の部屋を2部屋確保。最大で4家族に5部屋提供していたそうです(2月27日時点)。被災者が滞在していなくても、その分の部屋は空けている必要があります。そのため観光客を入れることもできず、受け入れに伴う支給もありません。

「1、2日くらいなら弁当を用意はできるでしょうが、3月31日までだと60日以上続く。うちの施設は素泊まりという条件だからこそ協力できたが、3食であればできませんでした。そんな状況で、こういった批判が起こってしまうとは…」。実情を把握せぬままの情報発信によって、2次避難の受け入れ先を決めたことへの気持ちさえも揺らいでしまったと言います。

「避難所ガチャ」と言われる立場

また、受け入れ施設により、ブッフェ形式で食事を提供する宿もあれば、食事が出ない施設もあるなど、同じ被災者ながらも対応に差があることから、「避難所ガチャ」という言葉が生まれてしまったことも憂える中川さん。

「例えば2次避難は素泊まりで統一して、食事分の差額を被災者に直接支給すれば、本人が買って3食食べられると思うのです」

被災者は自由に避難先を選べるわけではなく、調理設備を持たない宿泊施設もあるため、避難を進める行政には不平等感が出ない工夫が求められると言えるのではないでしょうか。

今回の中川さんの声に対しては、SNSでは「一部の方だけかと。手を上げてくださったこと感謝です」「出来ることをやることに非難されたら誰もやらなくなるよ」と共感する人も。地震に関連してショッキングな写真や強い言葉が投稿されることもありますが、すぐに反応するのではなく、その背後に事情があることを考えたり、調べたりしたする必要があるのではないでしょうか。

◇ ◇

法林寺温泉は今回の地震で被災して入浴できない人に向けた「無料入浴支援」に参加。現在36ある入浴施設の中で唯一の富山県に所在する施設です。1月2日から営業している法林寺温泉には、七尾市や羽咋市、宝達志水町、津幡町、二俣(金沢市)から多くの人が入浴に訪れたと言います。

「何時間もかけて来られた人もいました。『断水しとる』『お風呂入りたくても入れん』と。今まで温泉をやってきて、こんなに必要にされていると感じたことはなく、びっくりしました」

そこで、石川県に協力施設として登録し、罹災証明書か本人確認証明書を持参すると無料で入浴できるようにし、「平均1日2、3人は利用がいらっしゃいます」とのこと。まだまだ、被災地ではあらゆる支援・対策が必要であることを改めて実感します。

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・谷町 邦子)

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