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<知事は悪くない?>豊洲盛り土問題で石原・猪瀬両元知事が「怪発言」

メディアゴン / 2016年9月19日 7時40分

両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]

* * *

インタビューした相手の話が記憶の混乱や事実誤認である疑いが強いとしたら、それがどれほどおいしいインタビューであってもそのまま放送して良いのでしょうか。

豊洲盛り土問題で2008年頃にコンクリートの箱を地下に埋める案を出したのは石原元都知事なのかそれともお役人からの提案だったのかが焦点となり、テレビ各社は石原元都知事の自宅へ走りました。

9月15日(木)、ああ見えてサービス精神旺盛な石原氏は自宅前でなんと3回もぶらさがり取材に応じました。その内容を、「新たな事実がわかった!」として伝えたのが翌日の日本テレビ系「スッキリ!!」でした。「スッキリ!!」が編集してOAしたインタビュー内容をまとめると、

 石原「だからようするにね、設計事務所が変わったでしょ、変わってですね盛り土からもっと工費のかかる地下空間にしたんですよ。それが変わったって報告を私は受けただけだから。市場長から。盛り土するよりもあの工法の方がお金かかるわけでしょ。建設・・・はそっちの方が儲かるんですよ。」

このインタビューを受けて「スッキリ!!」は、石原氏が建物の下をコンクリートの地下空間にすることを認識していたことが新たに分かった、と放送しました。

そのとおりならコンクリートの箱工法を言い出したのが石原氏なのか当時の市場長なのか、などよりもはるかに重大なニュースです。いま話題騒然の地下空間を2008~2009年頃に石原都知事が認めていたことになるのですから。

しかし、この石原氏のインタビュー内容は矛盾に満ちており、石原氏が在任中に建物の下をコンクリートの地下空間にすることを認識していたとする「スッキリ!!」の判断にはかなり無理があります。

このインタビューを素直に聞けば石原氏が話しているのは2008年5月ごろに出て来たコンクリートの箱工法のことです。それは文脈の中で「あの工法」と言っていることからも明らかです。

また、「地下空間にした」と言っているのは、一見いま問題の地下空間を指しているようですが、現在できあがっている地下空間はごく簡素なものでお金はかからず「もっと工費のかかる地下空間」ではありません。逆に盛り土をせずに浮いたお金はどこへ行ったのかと問題になっているくらいです。

さらに石原氏は「設計事務所が変わった」と言ってますが、設計事務所が日建設計に決まるのは3年後の2011年であり、その後も設計事務所が変わったという事実はありません。

別の番組の編集では、石原氏は、コンクリートの箱工法は設計事務所の提案が市場長を通じて上がってきたと言っていますから、石原氏の言う設計事務所話は2008年頃のことで、最終的に地下空間を作った2011年6月の基本設計とは別の話か、あるいは石原氏の記憶違いなのかもしれません。

【参考】<建物の下はすべて空洞>移転どころではない豊洲新市場

石原氏は9月13日(火)BSフジの「プライムニュース」に出演しています。

この時、「盛り土をしていないことについて知事時代にお聞きになっていたのですか?」という質問に対し、石原氏は「聞いていません。私は騙されたんですね。」と言ったあと、差別的言葉を連発して、まったく知らされていなかったことを強調しています。また、ほかのインタビューでも「寝耳に水」と言っています。

このような数々のデータから、15日の石原インタビュー発言はあくまでコンクリートの箱工法についての話であり、問題の盛り土されていない地下空間を作る話を都知事時代の石原氏が知っていた、という「スッキリ!!」の言う「新事実!」には直接はつながらないと思われます。

このことは同様に取材をしていた他の番組やニュースがコンクリートの箱工法の話としては取り上げても、最終的な地下空間について石原氏が認識していたという観点ではほとんど取り上げていないことからも明らかでしょう。

いずれにせよ、今回の石原氏のインタビューには事実誤認か記憶違い、言葉足らず、もしくは意図的なミスリードのいずれかがあることは否定できず、これを放送にのせるならかなりの配慮が必要と考えます。

この点で、このインタビューに対する「スッキリ!!」の理解は浅く、したがって編集や構成に視聴者に対する配慮が不足し、誤報とまでは言いませんが、放送内容には相当の疑問が残りました。

同じ石原氏ぶらさがりインタビューを伝える放送でも、うひとつ疑問が残ったのが9月16日(金)のフジ系「直撃LIVEグッディ!」です。

2009年のはじめ、当時の市場長がコンクリートの箱工法はお金がかかりすぎるので採用できないと石原氏に報告した際に、同時に間もなく別の案で決定すると報告し、石原氏はその別の案が盛り土ではなく何らかの形で地下空間を作る案であると理解していた、と伝えました。

これが事実なら当時の石原知事が地下空間の存在を認めていたことになるのでかなり重要なニュースです。しかし番組ではまったくその根拠が示されず、司会の安藤優子さんが思わず「良くわからない」と口走ったほどでした。言わば、アナウンサーがそう言っているだけ、と言われかねない内容で、ある程度の事実を示して説得力を持つまでは放送すべきではないものでした。こうした勇み足は不調を伝えられる「グッデイ」の焦りの表れなのかもしれません。

【参考】<予算制度を無視した暴挙>舛添前知事「のり弁報告書」がすごい

石原氏インタビューとは別ですが、豊洲盛り土問題でもうひとつ大変興味深い放送がありました。9月15日(木)テレビ朝日系「ワイドスクランブル」に猪瀬直樹元知事が出演し、他のコメンテイターに「そんな意見しか言えないんじゃだめなんだよ」などと相変わらずのスタイルで持論を展開しました。

番組は、盛り土をやめて地下を空間にする話が現場から知事へ上がってこないのは問題ではないのか、という趣旨の質問を繰り返したのですが、これに対して猪瀬氏は、

 猪瀬「議会があって、メディアがあって監視することで民主主義が成り立つ」「(役人が不手際の時に)誰に相談に行ったかというようなことは、むしろタテに上がって来るよりもヨコに行っている可能性が高い」

などと言い続けました。猪瀬発言をかみ砕けば、

*役人の監視責任は議会とマスコミにある。(知事の責任にはまったくふれず)

*情報はタテの知事よりもヨコに流れることがある。

*都の役人は知事よりも「裏の力」である議会の有力者を重要視することがあるから、そういうことにも目を向けないといけない。

このような趣旨を相変わらずの猪瀬節で語り続けたのでした。もちろん知事自身の組織管理責任にはひと言たりともふれませんし、「裏の力」の存在を知っていながらそれを許していた己の非力さにもふれません。

こうしたどうにも無責任に聞こえる発言に、傍らで聞いていた脳科学者・中野信子さんは一度ならず手で口をおさえて失笑し、となりのジャーナリスト・末延吉正さんはあまりのことに怒り、そしてあきれ顔でした。

石原氏と猪瀬氏。態度はいつも横柄で、自分のことは差し置いて相手を強い言葉で攻撃するところはよく似ています。返答に詰まると、問題を追求するのはメディアの仕事、と言い出すのも同じですし、都の幹部や職員を「役人」とか「下」とか呼ぶのもそっくりです。

今回、この両者の発言を聞いていると、自分の業績には言及するものの、言外に問題の非はすべて自分以外の人間にあるとし、組織の長としては責任逃れを意図している様子が透けて見えます。

こういう方々が十数年もトップにいると、「下」の「役人」はそれなりの仕事のやり方を選ぶようになり、そうした組織運営が続けば、健全なガバナンスは徐々に機能しなくなって行くのかもしれません。

【参考】都知事の高額出張費は「わかりやすいところを叩く」ネット世論の格好のターゲット

今回は、やってもいない盛り土をやったと言い、だから安全だと言って世の中を騙し続けました。そしてそのことに歴代のトップが責任を感じることはまったくないようです。

やはりこの組織にはガバナンスが効いていそうもありません。豊洲の次に汚染土壌を入れかえる必要があるのは東京都そのもののようです。

*追補* 9月17日(土)夕方、石原氏は15日木曜日の発言内容を一部修正しました。前言を翻し、コンクリートの箱工法は自分の方から市場長に伝えたことを認めました。さらに、伝えた結果についてはいっさい報告を受けていないことを強調しました。

この「報告を受けなかった」という主張は市場長の発言と完全に矛盾します。また、「報告を受けない間にことが進められていてああいうものができて今の事態になったようだ」とわざわざつけ加えましたが、修正発言を含めて石原氏の発言の真意と信頼性には大きな疑問が残ります。

9月18日(日)フジテレビ「新報道2001」では、2011年8月30日付けで総額333億円余の「豊洲市場土壌汚染対策工事」の契約書を紹介しました。この契約書には建物下に盛り土をしないことが明記されており、ゼネコンと石原都知事名で交わされていることから、石原氏が知らなかったという主張にはその職責上かなり無理がありそうです。

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