もはやエコカーじゃない!? 新型ミライは世界で戦える高級車に
MōTA / 2020年11月2日 11時30分
水素自動車と聞けば、航続距離と水素ステーションの設置数というネガがつきまとっていた。だが、新型ミライは東京大阪間を余裕で往復できるうえ、質感をレクサス並みにレベルアップさせるなど、かなりの力作だという。一体、どんな仕上がりになっているのか? >>
未だマイナーな存在! 最大のネガはインフラ
ハイブリッドカー=HEVやプラグインハイブリッドカー=PHEVはとっくに当たり前の存在、今や誰もが自然に受けとめている。電機自動車=BEVについてもそろそろ慣れてきたか、あるいはこれから慣れていく頃合い、といえるだろう。
けれど、燃料電池車=FCVはどうだ? バッテリーとモーターで走る同じ電動車のグループにあるのに、“それって何だっけ?”ならまだマシな方。一般的には存在そのものを知らない人が結構いたりして、“ド”がつくぐらいにマイナーだ。
まぁ、無理もない。そもそも車種そのものが極めて少ない。補助金や減税でかなり減額されはするものの、見かけ上のクルマの値段はかなり高い。減額されてもほどほど以上の金額で、クルマがそれに見合った魅力を持ってるかといえば疑問符が付く。それに大きな関心を持って手に入れたいと考えても、動力源となる水素を充填できる場所が極端に限られてる。普及へのハードルは、まだまだ高いのだ。
水素自動車は最強のエコカー! でもどんな仕組みなの!?
そもそも、FCVというのはどういうモノなのか。それも一般的にはあまり知られていないような気がする。どういう仕組みでクルマが走るのか、がちゃんと認知されているとは言い難い。FCVとはFuel Cell Vehicleの略で、Fuel Cellは燃料電池のこと。ものすごーく簡単にいうなら、FCVの燃料となるのは水素と酸素。車内の高圧水素タンクに充填した液体水素と空気とをそれぞれFCスタックという燃料電池の発電装置に送り込み、水素と酸素を化学反応させて電気エネルギーを発生させ、その電気でモーターを回してクルマを走らせる、というような仕組みだ。
タンクに水素が入ってさえいればクルマの中で発電することができるため、外部からの電源供給で充電する必要はない。化石燃料を燃やさないので、二酸化炭素も有害物質も排出せず、クルマから排出されるのは水素と酸素の化学反応で生まれる水のみ。そんなふうに考えていただいていいだろう。
初代のダメなとこを払拭! 新型ミライは超イイ
現時点で製品化されているFCVは、日本においてはトヨタ ミライとホンダ クラリティのみ。そして2014年に登場した初代ミライは2020年6月を持って生産終了となり、この12月に2代目ミライが発売されることになる。そのプロトタイプに触れることができた。ここで正直に白状しておくけれど、僕は初代ミライには未試乗のまま。燃料電池を積んだクルマは他で体験させていただいてはいるものの、初代ミライのいいところもそうじゃないところも、身体で知ってるわけじゃない。にも関わらずこんなことをいうのには背徳感がつきまとうが、初代ミライ、仮に自分がひとりのユーザーであるなら、あまり触手を伸ばしたくなるタイプのクルマとは言い難かった。
燃料電池という技術に興味はあっても、肝心の水素を充填できる場所は極めて限られてるし、何より──ここは好嫌が分かれるところかもしれないけど──1台のクルマとして魅力的だとはどうしても思えなかったのだ。素直にカッコいい! 車内のデキも文句なし
対して、新しくなるミライが1台のクルマとしてどうかといえば、実は“これ結構いいんじゃない?”と自然に思えるようなクルマだった。 まず、第一印象からしてよかったのだ。先代と較べて85mm長く、70mmワイドで、65mm低いボディ。そのワイド&ローな姿勢、伸びやかなフォルム、シンプルな線構成と上品な面の張り。綺麗なカタチをしたセダンだな、と感じる。 インテリアも好印象。T字基調のダッシュボードに渋めなメタルパーツで区切りを入れることで、ドライバーズシートには心地好いタイト感を、サイドシートにはちょっとした開放感を感じさせるデザインは巧み。全体的にシンプルでありながら必要なモノが機能的にレイアウトされてる様も、大人っぽい装いでいい。 数値上では3人掛けとされるリヤシートは事実上は2人掛けのようなものだが、そう割り切れば足もともそれなりに広く、快適だ。こういうところ、初代のミライからは感じることができなかった。走りはレクサス並み! ただのエコカーじゃないゾ
実際に走らせてみても、結構いいな、と感じられた。思いのほか楽しいな、とすら感じられた。今回の試乗は短いクローズドコースに限られていたため、クルマの全貌が掴めたとはいわないけれど、総重量でいうなら2.2トンの決して軽くはないクルマなのに、走って楽しめるクルマであることははっきりと伝わってきたのだ。 ひとつには、先代と違って後輪駆動とし、前後の重量配分にも気を配った設計とされたことが大きいだろう。レクサス LSのTNGA GL-Aをベースに、FCシステムを極力低くレイアウトしつつ、主としてリヤまわりの剛性を引き上げたプラットフォームの存在も大きいだろう。この大柄なセダンが、まるでもっとコンパクトなスポーツセダンを走らせているかのように、素直に、気持ちよく曲がってくれるのだ。タイヤが悲鳴をあげるようなところまで持っていっても、コントローラブルといえる部類。ECOカーだから、というエクスキューズなんて全く感じられない。
路面状況関係なし! とにかく乗り心地がイイ
乗り心地も結構いいんじゃないか? と思った。サーキットは路面が滑らかなので一般道とは異なるかも知れないが、意地悪く縁石にタイヤを引っ掛けてみたりカマボコ状になってる部分に乗り上げてみたりもしたけれど、車体と脚が衝撃を上手く吸収して、ドライバーズシートにいるときも、リヤシートに座ってるときでさえ、不快感のようなものに悩まされることはなかった。
加速もなかなかのものだ。速度の伸びも悪くない。燃料電池で174ps、モーターで182ps。発進時には駆動用バッテリーのみ、クルージングのときには燃料電池のみでモーターを駆動するこの仕組みも、必要なときには双方から電力が送られてモーターを力強く駆動する。爆発的に速いとまではいわないが、ドライバーがスポーティな走らせ方をしたいときにガッカリさせられるようなことはなく、充分にモーター駆動のクルマならではの気持ちのいいフィールを味わうことができる。望外に満足感は高かったのだ。
東京大阪間も余裕で往復可! 走りながら空気をキレイにする機能も
水素のタンクは先代から1本増えて3本となり、搭載量は4.6kgから5.6kgに。燃費そのものも各部の改善で10%ほど向上してることもあって、1回フル充填しての航続距離は、従来のJC08モードで約650kmという数値からWLTCモードで約850kmと大幅に長くなっている。
エアクリーナーの中の特殊なフィルターで二酸化硫黄や二酸化窒素、アンモニアなどの有害な化学物質やPM2.5レベルまでのダストを補足して排出する、走るほどに空気を綺麗にしていく“マイナスエミッション”の考え方もいいな、と思う。クルマに備え付けのコンセントやDC外部給電システムを使った外部への電力供給だって可能だ。もちろん最新式のADASだって備わってる。
そうしたECOカーであるFCVとしての長所をしっかりと伸ばしたり広げたりながら、新しいミライは1台のセダンとして魅力的なクルマに仕上げられている。堂々とそうお伝えすることはできるし、素直にそう感じてもいるのだ。
生産体制を大幅テコ入れで本気で水素シフトに
とはいえ、この原稿をしたためてる2020年10月30日の時点で、稼動している水素ステーションが全国で70軒ほどしかないという現実があるのも確かだ。
にも関わらずトヨタは、これまでの頑張っても年間3000台が限界だった生産能力を30000台までに増やす計画だという。初代ミライは当初は年間700台で、ひと頃は納車まで3年待ち。徐々に3000台まで増やしてきたが、生産と供給が限界を越えていた。
それをリスク覚悟で一気に10倍まで増やそうとする意図はどこにあるのかといえば、水素で走るクルマの台数の分母を増やしていくことで全体的な水素の消費量を増やし、水素ステーションの数や分布などのインフラ整備をうながしていきたい、という点。ミライのみならず、FCVの可能性を広げていくため、なのだ。
トヨタはミライというクルマで、FCVの未来をも作っていこうとしてるのである。クルマ作りも環境作りも本気、なのだ。
【筆者:嶋田 智之/撮影:島村 栄二】
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