嗚呼、楽しきかな中古車ライフ 第10回:コイツは時代の20年先を行っていた!! EK10マーチスーパーターボ編(その5/最終回)
MotorFan / 2018年8月27日 11時40分
ハイパーレブ/ManiaxCars編集長のケン太郎す。 これまで『OPTION』や『R30&R31 Magazine』なんかでも書いてきたけど、運転免許証を取得して30年弱、国産車を中心に、中古車ひとすじ30ン台を乗り継いできた立場から、その楽しさや思うことなんかをツラツラと書いていきたい。ここ3週間、『ManiaxCars』Vol.02の編集作業が忙しくてサボってたけど、今回は、都合4台も買った(笑)EK10マーチスーパーターボの最終回、なぜEK10が「時代の20年先を行っていた」のか?2008年のJAIA(日本自動車輸入組合)試乗会で、同じツインチャージドエンジン搭載のVWゴルフGT TSIに乗り、当時OPTIONでその感想を書いた記事をもとにして、その理由を述べてみたいと思う。
それは、たしか2007年のことだったと思う。
フォルクスワーゲン(以下、VW)がゴルフに排気量1.4ℓのツインチャージドエンジンを搭載してきた。“ダウンサイジング”なんて言葉がチラホラ聞こえるようになってきた頃だと思うけど、EK10マーチスーパーターボ乗りとして、そりゃすんごい気になる存在なわけで、しかも世のモータージャーナリストの先生方が右へならえで「こりゃスバラシイ!」みたいなことを言ってるから、もう乗ってみたくてしょうがなかった。
そのチャンスが巡ってきたのは、2008年のJAIA(日本自動車輸入組合)が主催する年に一度の試乗会だ。当時、国産チューニングカーをメインでやってたOPTIONもなぜかJAIA試乗会には毎回呼ばれてて、普段接する機会のない輸入車に乗れる!ってことで足を運んでた。
事前に送られてきた試乗車リストを見ると…おお、ちゃんとあるじゃんゴルフ GT TSIが。人気車種は1枠45分なんだけど、ゴルフGT TSIは「今さら乗ってもしょうがない」と思われてたのかどうかは知らんけど、人気薄だったため2枠分の1時間半で借り出すことができた。
さぁ、その実力はどうなのよ? 世のモータージャーナリストの先生方の目はゴマカせても、普段からツインチャージドエンジン搭載のEK10に乗ってるオレの目はゴマカせないぜ! と意気揚々、試乗会場の大磯へと向かったのであった。
スペックを知って一瞬ひるむオレ(笑)
排気量1.4ℓで170ps/24.5kgmを誇り、1500~4750rpmで最大トルクをキープするだけでなく、10・15モード燃費で14.0km/ℓをマークするなど、まさに“ハイパワー、高トルク、省燃費”と三拍子そろった直4の直噴ツインチャージドエンジンを搭載するゴルフGT TSI。
キーを借りてソッコーで走り出す。まずチェックすべきは当然、エンジンだ。と思う間もなく、ややややや!? 1.4ℓとは到底思えないほどのブ厚い低速トルク。いきなり「コレはスゴイかも…」とちょいアセったけど、落ちつけオレ。冷静になれ。
MA09ERTのスペックを思い出してみると、排気量930ccで昔ながらの過給機付きらしく圧縮比7.7:1という超ローコンプ仕様。対してゴルフGT TSIは、そもそも排気量が1.5倍あるんだし、直噴の導入によって9.7:1と圧縮比もかなり高め。てことは、べつにオドロくほどのモンじゃないじゃん! と勝手にナットク…することにした。
しばらくはDSGのDレンジ(完全なATモード)を選んで、会場周辺をグルグルと回りながら、なんどもフル加速を試みる。ぶっちゃけ、「速さ的にはまぁこんなもんか」といったところ。ものすげぇ速かったらどうしよう(どうしようもないんだけど)と思ってたから、ここはホッと胸をなでおろした。もっとも、いかにもドイツ車らしくボディのつくりがガッチリしてるから、体感上は速さをあまり感じないってのはたしかにあると思う。
ただ、車重が1410kgもあれば、170ps/24.5kgmというスペックをもってしても、速さがそこそこに落ちつくのも当たり前。EK10は車重たったの770kgで130ps/16.5kgm(ボッシュ製シャシダイでの実測値)なんだから、速さでは間違いなく勝ってる…と信じたい。
西湘バイパスで高速域を試す!
そのまま、こんどは西湘バイパスに乗って高速テストだ。DSGをマニュアルモードにぶっこんで、シフトアップ&ダウンをくり返しながら流したり、加速してみたり。
と、そこでふたつのことに気がついた。
ひとつは、中間加速がやたらとイイってこと。5速60km/hとか6速80km/hとか、2000rpm前後でダラダラ流してる状態からでもアクセルをひと踏みすれば、ブースト計の針がスッと最大値まで振れてグイグイ前に出てってくれるのだ。う~む、さすが1500rpmで最大トルクを発揮してるだけのことはあるな。クヤシイけど、ピークトルクに達するのが5000rpm手前のEK10じゃ、そうはいかないもんな。
それともうひとつ、100km/h巡航時に5速で2600rpm、6速だとたったの2200rpmしかエンジン回ってないじゃん。「そりゃ燃費だってよくて当然だろっ!!」と憤ってみたくもなる。なるほど、低回転域でのトルクがたっぷりある→ハイギヤード化しても十分走る→結果的に燃費もよくなる…と、そういう図式が成り立ってるワケだ。
と同時に5速100km/h巡航で3000rpmも回しつつ、110~120km/hキープで14~15km/ℓも走ってくれるEK10を、オレは無性にホメてやりたくなった。今どき探すのが難しいシングルカムで、スーパーチャージャーとターボの切り替えを圧力で制御(ゴルフGT TSIは電子制御)してる化石みたいなエンジンだけど、走りでも燃費でもぜんぜんイケてるじゃ~ん。
唯一、負けてるとすれば排ガスを始めとした環境性能だろうけど、そりゃ今のエンジンと20年も前のエンジンを比べること自体がオカシな話だ。
やっぱEK10はスゴかった!!
ゴルフGT TSIは“実用車としてすこぶるよくできたクルマ”ということは認める。
けど、乗ってオモシロイかと聞かれたら、オレの答えは100%ノーだ。なぜなら、競技で勝つために生み出されたエンジンを搭載するEK10に、いつもオレは乗ってるから。採用されたシステムが同じツインチャージャーでも、EK10とゴルフGT TSIとでは開発のスタート地点がまるで違うのだ。
MA09ERTはSOHC、燃料供給はポート噴射で、ターボチャージャーとスーパーチャージャーの切り替えも負圧制御というアナログなもの。
一方のゴルフGT TSIはDOHCで直噴、ターボチャージャーとスーパーチャージャーは電子制御で切り替えられるなど、その頃の最新技術がてんこ盛りだ。
なのに、実燃費はたいして変わらないとなれば(排ガスなどの環境性能はともかく)、20年先に登場したMA09ERTの方がスゴイ! という結論しか出てこないし(笑)、それでこそ『技術の日産』の面目躍如だったりする。
つうか、ゴルフGT TSIに搭載された1.4ℓツインチャージドエンジンを手放しで絶賛してた世のモータージャーナリストの先生方は、EK10に乗ったことがあるんだろうか? もし乗ったことがあるんだったら、技術が20年分進歩してることを踏まえて「VWのツインチャージドエンジンって、ま、そんなもんだろ」という感想を抱くはず。それを原稿に書けるかどうかは、また別問題として(笑)。
逆にEK10に乗ったことがなくてVWのツインチャージドエンジンをホメちぎってたとしたら、そりゃかなり恥ずかしいことだと思うんだけど。
歴史だ文化だ伝統だ…というところでは、欧米のクルマに対して日本のクルマはなかなか追いつけないけど、こと技術に関して言えば、決して負けちゃいないと思う。その一例がツインチャージドエンジンMA09ERTであって、それは日産の誇りであり、もっと言えば日本のクルマ業界の誇りだと思う。
もっとも、車重が770kgしかないEK10と1410kgもあるゴルフGT TSIとじゃ身のこなし方がまるで比べものにならないわけで、年式の新旧は抜きにして、いつの時代だってクルマは軽い方が走って楽しいに決まってる。
興味津々でゴルフGT TSIのステアリング握ったけど、そこで導き出されたこと。
それは「やっぱマーチスーパーターボの方がはるかにイイや!」ってことだった。
というわけで、5回にわたってお届けしたEK10マーチスーパーターボ編はこれにて終了。
次回は…カミさんの足グルマとして幻に終わったアコードエアロデッキ1.8LXのことでも書こうかな?
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