火星ヘリコプター「インジェニュイティ」の冒険は続く - その最後の任務と未来
マイナビニュース / 2024年5月30日 16時41分
●史上初めて地球以外の空を飛んだヘリコプター、そこに込められた創意工夫
火星の空を舞い、地球以外の惑星で初めて飛んだ航空機となった小型ヘリコプター「インジェニュイティ(Ingenuity)」。2021年4月から今年1月まで、当初の計画を大きく超える、通算72回の飛行を行い、累計で17kmも移動するなど、歴史的な成果を残した。
この活躍により、火星探査においてヘリコプターが活用できることが実証された。そして、将来的により本格的な火星ヘリコプターを送り込み、これまでにない探査活動を行うことができる可能性も出てきた。
インジェニュイティ
インジェニュイティ(Ingenuity)は、米国航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所(JPL)が開発した小型の無人ヘリコプターで、火星の空を飛ぶ技術の実証を目的としている。
これまで、地球以外の天体の空を動力飛行した例はなかった。金星の空を気球で飛んだり、土星の衛星にパラシュートで降下したりといった例はあるが、動力飛行する航空機はインジェニュイティが史上初だった。
インジェニュイティとは「創意工夫」や「発明の才」といった意味をもつ。その名前のとおり、火星の空を飛ぶために多くの創意工夫が凝らされている。
火星でヘリコプターを飛ばそうとした際、最も大きな障害となるのが大気の薄さである。火星の大気圧は、地上付近ですら地球の約1%で、高度30kmに相当する薄さしかない。そこで、インジェニュイティは質量1.8kgのティッシュ箱ほどの小さな胴体に、直径約1.2mの大きな二重反転ローターを装備し、地球のヘリコプターの何倍も速い毎分約2400回転で回るようになっている。
また、極寒の火星の夜を耐えるために、多くの火星探査機はプルトニウム238(放射性同位体)を使うヒーターを搭載しているが、質量が大きく高価でもあることから、インジェニュイティは普通の電熱ヒーターを装備している。電力はローターのさらに上に装備した太陽電池でまかなっており、約350Wの電力を供給する。少ない電力でローターやヒーターを動かすため、電源系は高い効率で動くよう造られている。
さらに、火星と地球との間は遠く離れており、電波が届くのに片道5~20分ほどもかかるため、ラジコンヘリのように地上から操縦することはできない。そこで、インジェニュイティ自身が、カメラから得た画像をコンピューターで処理することで、完全に自律して飛行できるようになっている。また、地球との直接通信もできないため、通信は火星探査車「パーサヴィアランス」を介して行う。
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